しかし、大谷どころか、野球のやの字も知らなかった高齢者までもがロサンゼルス・ドジャースを語る日がくるとは驚きだ。さすがの私でも予想できなかった展開だ。
※本記事は、江本孟紀著『長嶋亡きあとの巨人軍』より適宜抜粋したものです。

◆アメリカの草刈り場になってしまうのか
一方で、日本のプロ野球に目を向けてみよう。それぞれのチームを応援するファン同士では盛り上がっている。だが、ワイドショーで門外僕のコメンテーターがあれこれ議論するなんてことにはなっていない。MLBの話のほうが身近に感じて、国内の話はそっちのけ……。そんな状況を見るにつけ、野球界はどんどん廃れていくんじゃないのかと心配になってくる。
大谷に期待したいのはやまやまだが、彼の主戦場は、はるばる遠いアメリカである。華々しい活躍はなおのこと、巨額の契約金や年俸についても、毎日こと細かに報道されている。そんな姿に憧れた日本人選手がMLBに流出する事態は今後も続くだろう。
スター選手がこぞってアメリカに行くのは、日本のプロ野球にとって大きな損失だ。このままアメリカの草刈り場になってしまうばかりでは、あまりに寂しいではないか。
◆「MLB挑戦に失敗した選手」の処遇を考える
だからこそ考えてみたことがある。「MLBに挑戦した選手の出戻りを、おいそれとすぐに受け入れてはいけない」というルールを設けるべきではないか。
最近でいうと、阪神からポスティングでMLBに移籍した青柳晃洋だ。渡米からわずか半年ほどで帰国し、7月31日にヤクルトと契約した。彼は2021年、22年に最多勝利と最高勝率のタイトルホルダーだ。くわえて2022年は最優秀防御率のタイトルまで獲得したものの、続く2023年と24年は低迷していた。
そこに来ての、MLB挑戦だ。2025年1月にフィラデルフィア・フィリーズとマイナー契約を結び、招待選手としてスプリングキャンプに参加することになった。だが、阪神時代の後半に見せていた制球難は克服されぬまま、「使いものにならない」と判断されてしまった。
マイナーキャンプに合流して以降も改善する様子がなく、結果を残せないまま7月23日に自由契約の憂き目となった。青柳が通用するかは、正直厳しいと見ていたので、シーズンの途中で帰国したことにはまったく驚いていない。
だが、情けないと思ったのは、ヤクルトに入団した直後の記者会見での一幕だ。
「月10万円の給料では、家族を養えない」
これを聞いて、「この期に及んで何を言っているんだ」とため息をつきたくなった。
日本で億単位の高額年俸をもらっておきながら、こんな理由で帰国するとは……。情けないと思わないのかと、本人に問いただしたくなった。

