◆なぜモバイルオーダーを終了したのか
「かけうどん」や「ぶっかけうどん」に好みのトッピングや天ぷら、ご飯ものを選択できる丸亀製麺は、顧客体験における最重要項目のど真ん中と言えるサービスを提供しているのです。同様の業態である、はままるうどんが復活した背景も、消費者が「パーソナライズ」の選好度を上げているということから説明ができるでしょう。丸亀製麺は2024年10月にモバイルオーダーサービスを終了しました。便利なサービスを提供しようとしたものの、利用状況等を総合的に判断して決めたと説明しています。
KPMGの顧客体験調査において「利便性」は4年連続5位であり、重要度は高くありません。丸亀製麺の判断は極めて合理的なものでした。
◆インフレによって飲食店運営の難易度が上がった
飲食店の顧客体験において、平均よりも値が大きいもう1つの要素が「期待の充足」です。これはコストパフォーマンスと言えばわかりやすいでしょう。インフレで飲食店が提供する料理の価格は高騰しています。安いから店に足を運ぶという消費者意識は薄れており、価格に見合った価値が提供されているかどうかで判断されるようになったのです。
ラーメンには1000円の壁があり、1杯の価格が1000円を超えると割高だと感じ、客離れの要因になると言われていました。確かにデフレ時代は800円が当たり前で、1000円は高いという共通意識めいたものがありました。800円は店側の価格設定において強く意識されていた数字です。
しかし、今は1000円の価値を提供できるかどうか、という視点が重要。抽象度が高いだけに店舗運営の難易度は上がっているのです。
丸亀製麺は顧客との期待値のすり合わせに心血を注いでいます。
このブランドの最大の特徴は店内製麺を貫いてきたこと。ここから更に一歩先を進んで、2024年に全店に麺職人の配置を完了しました。
例えば、消費者が800円でうどんを食べたいと考えた場合、工場で作った麺を提供する店と、専門の職人が店内で麺を作る店で、コストパフォーマンスが高いと感じるのはどちらでしょうか。丸亀製麺は期待に応える顧客体験を創出する力に優れているのです。
ただし、店内製麺の場合、店舗によって味にバラつきが出てしまいます。それを克服するため、麺職人の熟練度を評価する制度を設けたのでしょう。これも顧客の期待を充足する取り組みの一つです。

