◆日本のデジタルデトックスのやり方は「しんどい」
デジタル・デトックスの流れは決してアメリカだけの話ではありません。日本でも「スマホ依存」「SNS疲れ」「情報過多で疲れる」といった言葉が溢れるようになりました。そしてその対応策として「休日1日スマホを触らない」「夜〇時以降スマホ禁止」といった“プチ断ち”を試す人の体験記事も見られます。ただ、日米ではこの「デジタル・デトックス」のとらえ方・対応の仕方がまるで違うと感じます。日本では多くの場合「個人が自らスマホを控える・趣味を変える」など“自己制御型”が中心です。言い換えると「気合い」や「強い気持ち」をもとにスマホやネットから離れる個人の取り組みが主です。「休日スマホ封印」などがいい例でしょう。
対してアメリカでは「店舗・施設がスマホ禁止を運営ルールとして導入する」という“場づくり型”が多いように見受けれられます。「アメリカでは場づくり型、日本は個人努力型」というのが大きな特徴として見れるかもしれません。
「個人の気合でデジタルを絶つ」という「頑張り」を最初から諦めているようなところが、アメリカらしくておもしろいところです。アメリカで働くようになって数年が経ちましたが、振り返ればアメリカ人の同僚が職場で「頑張ろう」と言っていることを一度も見たことがありません。「無理なものは無理」「問題は個人の頑張りではなく、システムで解決する」という考え方があらゆるところで見てとれる気がします。
アメリカ人が諦めるのは「個人で頑張る」だけではありません。なんなら「デジタル・デトックス自体」も完ぺきに成し遂げることを最初から諦めているように思えます。具体的には「デジタルを断つことをあきらめて趣味で間接的にデトックスする」ということをしているように思えてならないのです。
そのため「頑張ってデジタルを絶つ」よりは、新しい趣味を楽しんで「結果としてスマホ離れをする時間」を設けようとしているのだと思います。編み物もそのひとつと考えていいでしょうし、今後旅行や料理なども更に注目を集めていくことでしょう。

◆AI時代の人間らしい時間の作り方
「スマホから離れる」ということは多くの人にとってもう無理なことだと思います。一部の例外を除けば、生活の一部として肌身離さず触ってしまうものでしょう。そういう人間の弱さみたいなものを否定するのではなく受け入れることに意味があるし、前に進むヒントがあるように思います。がんばってスマホやパソコンから離れようとするのではなく、「スクリーンとは関係ないなにか夢中になれるもの」を探して趣味としてやればムリなく楽しくオフラインの生活を楽しめるようになるのかもしれません。それは人に自慢できるようなカッコいい趣味である必要はなく「久しぶりに古い友達と飲みに行く」「親をご飯に連れていく」などの身近なことでもいいと思います。
もしかすると、“デジタルデトックス”とはテクノロジーを拒むことではなく、「自分の時間を取り戻す小さな抵抗」なのかもしれません。
【福原たまねぎ】
米GAFAMでプロダクト・マネージャーとして勤務。ワシントン大学MBAメンター(キャリア・アドバイザー)。大学卒業後にベンチャー企業を経て2016年に外資系IT企業の日本支社に入社。2022年にアメリカ本社に転籍し現職。noteでは仕事術やキャリア論など記事を多数発表。X:@fukutamanegi

