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自衛隊の任務「宇宙空間」まで拡大? 唯一の“専門部隊”司令が語る「活動の重要性」とは

自衛隊の任務「宇宙空間」まで拡大? 唯一の“専門部隊”司令が語る「活動の重要性」とは

スマホやカーナビに位置情報を送る測位衛星、天気予報のための気象衛星、さらに地球観測衛星、通信衛星など、現代社会は宇宙空間(およそ高度100キロ以上から先の大気圏外の上空)に浮かぶ「人工衛星」からの情報が欠かせない。

そこで防衛省は、2026年度の予算概算要求において、陸・海・空自衛隊のうちの航空自衛隊を、宇宙空間の人工衛星を守ることも任務に加えた「航空宇宙自衛隊(仮称)」へと改編することを盛り込んでいる。

その中核部隊となる航空自衛隊宇宙作戦群(司令部・東京都府中市)はどのような任務を付与されるのか。同群などへ取材した。(ライター・榎園哲哉)

宇宙空間に漂う「スペースデブリ」等の脅威

世界初の人工衛星「スプートニク号」がソ連(当時)によって1957年10月に打ち上げられたのを皮切りに、各国で宇宙開発が活発化。国連宇宙部の統計によると、これまでに打ち上げられた人工衛星などの人工物体は累計2万基以上とされている。

しかし一方で、近年新たな問題が浮上している。

人工衛星の残がいなど宇宙を漂うゴミ「スペースデブリ」だ。その数はNASA(米航空宇宙局)の2024年調査によると、約2万9000個にも上る。

そうしたスペースデブリが人工衛星に衝突し、ダメージを与えることが危惧されている。

また、人工衛星を意図的に“破壊”し、情報を遮断させることで社会インフラをストップさせることを目的とした「キラー衛星(軍事衛星)」の開発を進めている国もあるといわれる。

宇宙空間の防衛は、喫緊の課題となっている。その防衛の任務を託されたのが航空自衛隊だ。

航空自衛隊に「宇宙作戦群」設置される

宇宙空間を守る任務の“第一歩”は、日本の宇宙開発・利用の基本的枠組みを定めた「宇宙基本法」が2008年5月に成立、同8月に施行されたことだった。

それから10年後の2018年12月には、我が国防衛の基本方針を定める「防衛計画の大綱」に宇宙領域専門部隊を保持することが明記された。

それを受け2020年5月、自衛隊初の宇宙領域専門部隊となる「宇宙作戦隊」が東京・府中基地に新編された。

2022年3月に「宇宙作戦群」が新編され、その後改編を重ね、2024年3月からは、第1宇宙作戦隊(府中基地)、第2宇宙作戦隊(山口・防府北基地)などからなる隊員約300人体制(2025年11月現在)の部隊として、昼夜を問わず、宇宙空間の安定的状況の確保に尽力している。

「日々挑戦」を合言葉に任務に取り組む

発足70年を迎えた自衛隊にあって、唯一の宇宙領域を専門とする部隊。

宇宙作戦群司令の石井浩之1等空佐は統率方針として、「日々挑戦」を掲げる。

「既存の部隊は任務遂行の基盤ができ上がっているが、(宇宙作戦群は)基盤がない。前例もない。先駆者魂を持って日々の任務にまい進している」

重要課題として挙げるのは、「人材育成」と「結束強化」だ。

このうち「結束強化」については、陸・海・空自衛隊、さらに「1国1組織だけで地球全周の状況をカバー(監視)することはできない」(石井司令)と、同盟国・同志国、民間企業との緊密な連携に取り組んでいる。

特に同盟国のアメリカとは連携を強化している。在日米宇宙軍(東京・横田基地)を主要なカウンターパートとし、情報共有等を図っている。米国内で行われる宇宙領域演習にも積極的に参加している。

任務・活動の中心は「宇宙領域把握」だ。そのうちの「宇宙状況把握」は、第1宇宙作戦隊が担う。山口県山陽小野田市に設置したレーダーで衛星の状況を監視。JAXA(宇宙航空研究開発機構)などからの情報も集約する。

第2宇宙作戦隊が担う「衛星妨害状況把握」は、防府北基地と入間基地に展開している衛星妨害状況把握装置(レーダー)で、自国衛星に対する妨害状況などをチェックしている。

“戦闘領域化”している宇宙空間守る

1966年12月に国連で採択された「宇宙条約」は、その前文で「平和的目的のための宇宙空間の探査及び利用の進歩が全人類の共同の利益である」ことなどをうたう。

しかし、現実には「他国の宇宙利用を妨げる対衛星兵器(キラー衛星含む)を開発している国がある」として石井司令は危機感を持つ。

「仮に、我々(日本)にその能力を向けた場合、国民生活に大きな影響を及ぼす。宇宙空間の戦闘領域化が進んでいるため、従来のスペースセーフティ(安全)に加えて、スペースセキュリティ(防衛)の確保が必須になっている」

そうした背景も受け、高市内閣は、宇宙領域の防衛強化も盛り込んだ安全保障関連3文書の改定を目指している。

防衛省は今年7月、宇宙領域の防衛能力強化を目指した「宇宙領域防衛指針」を新たに策定した。宇宙作戦群も2025年度中に体制を拡充し、「宇宙作戦団」(隊員約700人)が新編される。

普段意識されることは少ないが、国民生活に大きな影響を及ぼす宇宙空間を守るため、石井司令は「これまでになかった危機が起こることを否定できない。そうした危機を未然に防ぐためにも、部隊一丸となって全力で取り組んでまいりたい」と決意を語った。

■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。

配信元: 弁護士JP

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