『天心』の文字やラベルの色呼ばれることも。題字は書家の莫山先生によるもの●北九州を代表する日本酒「天心」を生む溝上酒造のこだわりを深堀りしてご紹介します。
2024年12月5日、ユネスコの無形文化遺産に『伝統的酒造り』が登録され、国酒と言われる日本酒、本格焼酎などの日本の伝統的な麹菌を使った酒造り技術が世界に認められました。
同年の福岡県国税局管内酒類鑑評会(純米の部)で、その年唯一の賞である大賞を受賞したのが、北九州市の溝上酒造が誇る『天心(てんしん) 純米酒』でした。
今回は、この溝上酒造の酒造りのこだわりをご紹介していきましょう。
皿倉山の麓で酒造りを行う溝上酒造
酒蔵の背後には八幡の街を見守る皿倉山がそびえる溝上酒造は1844年に大分県中津市で創業し、1931年に福岡県北九州市のほぼ中央、八幡東区景勝町へと移転しました。北九州市を夜景No.1の街に押し上げた皿倉山の麓に工場と店舗があります。
この地に移転した理由としては、1906年頃、旧官営八幡製鉄所(現・日本製鉄九州八幡地区)のそばに営業所があり、その周辺でよい水が出る場所を探したところ、皿倉の豊富な湧き水が鉄分の少ない酒造りに適していたことが決め手だったとのこと。
名誉ある賞への道のりには、地産原料、造り手、そして心から溝上酒造のお酒を愛する地元の人たちが欠かせません。原料は水だけでなくお米も地場産にこだわっています。
10年ほど前、北九州では難しいとされていた酒造好適米の山田錦を地場の農家さんに何度も交渉し、作ってもらうようになりました。同時期に工場設備も改修。質や生産性の向上を手掛けてきました。
8代目溝上智彦社長。優しい笑顔の奥に杜氏としての心意気を感じます!造り手は道具を丁寧に洗うという“当たり前”に手を抜きません。繊細な香りや麹菌を扱うからこそ、造る人が誠実であること、基本をしっかり守ることがとにかく大事だと8代目社長の溝上智彦氏は言います。
溝上酒造の日本酒がずらりと並ぶ『角打Bar陣や』へ
日本酒に馴染みが薄い方にもおすすめです。地の魚や煮物などによく合いますこうして造られたお酒を出す『角打Bar陣や』(八幡西区黒崎)を訪問。こちらの日本酒は溝上酒造さんのものだけを置いています。
この日は、大将おすすめの『夢天心』をいただきました。フルーティーで華やかな香りと柔らかな口当たり、さっぱりとして後を引きすぎない、優しくも潔い味が特徴です。
前出の8代目社長の溝上智彦氏は杜氏でもあり、経営と酒造りの両方を担いながら180年の歴史を受け継いで、代表的な銘柄『天心』を造ってきました。蔵元と地元の相思相愛に一献傾ける、心が豊かになる時間でした。
まとめ
天心一献会。毎回60〜90名が集う。写真は事務局担当の小野山さん提供前記のお店を含め、「北九州で溝上酒造のお酒を飲み続けたい!」という地元の名士たちが、20年以上前に『天心で乾杯する会』を発足しました。当時は月に一度、酒店や飲食店が『天心』とよく合う料理や楽しみ方を語る場だったそうです。
同会は2013年から『天心一献会』と名を変えて、かつての発起人の方たちの想いをつなぎながら現在は年に4回行われています。登録会員は約400名。愛情は脈々と継がれています。
●SHOP INFO
溝上酒造
住:福岡県北九州市八幡東区景勝町1-10
TEL:093-652-0289
営:11:00~18:00
休:日・祝(時期により土曜休みあり)
https://sake-tenshin.co.jp/
●著者プロフィール

元 恵
福岡県内の食品メーカー勤務。主に九州の食材や食品を中心に、メーカー目線と消費者目線の両方から素材や製造工程に安心感が持てるものを探求しています。フードアナリスト2級。
