「夜勤手当」の差額請求で注意すべき点
「夜勤手当」についても、職位ごとの金額が就業規則に定められている限り、差額を請求することは可能と考えられます。
ただし、この請求に意味があるかどうかは、慎重に検討する必要があります。なぜなら、残業代の一種には深夜労働の割増賃金が含まれており、これは「夜勤手当」の支給条件と重複しうるためです。つまり、もし「夜勤手当」が深夜割増賃金としての支給だとされていると、その支払いを受けた分残業代の未払い額が減ることになります。そのため、両者の関係性に注意して就業規則を読み解く必要があるでしょう。
残業代請求権には「3年」の時効がある
残業代をはじめ、未払い賃金の請求権には時効があります。現行の労働基準法では、本来の支払日から3年経つと時効で消滅すると規定されています。
つまり、残業代の未払いが3年以上続いている場合、日々残業代が発生する一方で、給料日を過ぎるごとにその3年前の残業代が時効で消滅し、請求できる金額が頭打ちになってしまうのです。また、退職したあとは、最後の給料日から1ヵ月経過するごとに未払いの残業代の請求権が1ヵ月分ずつ消えていきます。
時効を止める「完成猶予」と「更新」
もっとも、時効には「完成猶予」という制度があります。「完成猶予」とは、その名のとおり、一定の期間中は、たとえそのあいだに時効期間が経過しても時効の効果を生じなくさせる事由をいいます。
最も身近なのが「催告」です。「催告」とは、裁判手続以外の方法で債務の履行を求める行為をいい、債務者が催告を受けてから6ヵ月間は時効の完成が猶予されます。また、その後6ヵ月経過するまでに裁判上の請求を起こすと、その裁判が終結するまで時効の完成がさらに猶予されます。一方、6ヵ月間なにもせずにいると、その時点で時効期間が経過しているものはすべて時効が完成したことになってしまうので注意しましょう。
そのため、雇い入れられてから3年に達している場合は、できればすぐにでも、最低でも退職後すぐに、未払いの残業代を支払うよう雇い主に催告すること。証拠を残すように内容証明郵便で送付することが賢明です。
その後、雇い主と交渉をすることになるでしょう。交渉を始める際に、できれば未払いの残業代の支払い義務を認める内容の文書を雇い主から取り付けます。このことを「承認」と呼び、これによって時効期間の経過がリセット(「更新」といいます)され、再び3年経過するまで時効は完成しなくなります。
それが困難であれば、交渉の期間は6ヵ月を目途にすべきです。期間内に解決する見込みが薄い場合や、そもそも雇い主が交渉に応じる様子がない場合は、催告を出してから6ヵ月が過ぎる日までに民事訴訟や労働審判を提起しましょう。
横山 令一
弁護士法人平松剛法律事務所福岡事務所
弁護士
