全日本民主医療機関連合会(民医連)は11月26日午後、記者会見を開き、医療機関の倒産・廃業が過去最多となる中、地域医療を維持するため国に緊急支援を求める署名活動の状況を報告。すでに42万9471筆の署名が集まっており、そのうち22万筆を国会に提出したという。
民医連の塩塚啓史経営部長は会見で、全国の病院を対象に実施したアンケート調査の中間結果についても公表。
調査によると、資金繰りが「かなり厳しい」と回答した病院は46%に上り、さらに23%の病院が「今年度中にも資金繰りが困難になる」と答えた。
塩塚部長は「何らかの対応がなければ資金がショートするという意味で、約4分の1の病院が来年3月末までに危機的状況に陥る」と深刻な実態を訴えた。
経営圧迫の背景に「借金返済」と「老朽化」の二重苦
医療機関の経営を圧迫しているのは、単なる赤字だけではない。
アンケート調査によると、年間収益の5%以上を返済に充てている病院が約3割に達しており、塩塚部長は「経常利益率が3~5%なければ普通の設備更新すらできず、自己資金を食い潰すしかない状況だ」と説明した。
さらに追い討ちをかけるのが、病院建物の老朽化だ。
この日紹介された、東京・吉祥寺の病院が突然閉院した事例では、経営は黒字だったにもかかわらず、老朽化した建物の建て替え費用が捻出できず廃業に追い込まれた。
建設費が2〜3倍に高騰する中「借りても返せない」状況に多くの病院が直面しているという。
コロナ融資返済がピークに「今年・来年を乗り切っても、その先で潰れる」
また、2020年のコロナ禍で多くの医療機関が利用した緊急融資制度の返済期限が、今年からピークを迎えている。塩塚部長は「通常の借金返済に加え、コロナ融資の返済が重なり、ますます苦しくなっている」と指摘。厚生労働省に対し、10年で返済予定の借金を20年に組み替えるなど、返済の柔軟なリスケジュールを求めた。
しかし現状では、返済を最大2年間猶予する一方で、残りの期間でまとめて返させる仕組みにとどまっているという。「今年と来年だけ生き延びて、その先で一気に返済負担が跳ね上がり、結局は倒れるようなやり方では意味がない」として、制度の抜本的な見直しを訴えた。
採用1人あたり年収の2~3割が人材紹介業者に
医療機関をめぐっては、人手不足も深刻だ。医師や看護師を確保できず病床を閉鎖する事態が全国で発生している。そのうえ、医師や看護師の採用を有料職業紹介業者に依頼せざるを得なくなっており、業者への紹介手数料が医療機関の負担になっているという。
「採用1人あたり年収の20〜30%もの高額な紹介手数料を支払っており、医者の場合には数百万円かかることもあるようです」(塩塚部長)
紹介手数料は最終的に診療報酬や介護報酬から支払われる構造で、民医連は税金から人材紹介業者に多額のマージンが流出していることを問題視。
診療報酬や介護報酬に支えられた分野では有料紹介そのものを禁止する、もしくは手数料を大幅に制限する規制を設けるよう厚労省に要請。同時に、ハローワークなど公的な職業紹介機能の強化も求めた。
来年1月までに署名100万筆目指す
政府は総合経済対策で医療機関への支援を打ち出しているが、民医連側は「規模と内容が不十分」と指摘する。特に問題視しているのが、地方創生臨時交付金を通じた支援のバラつきとスピード感だ。
塩塚部長は「自治体によって支援の内容にばらつきがあっても困りますし、年が明けて来年度にしかお金が入ってこないとなれば、上述した借金の状況から考えると、今、危機的状況を迎えようとしている医療機関を救うのには到底間に合いません」と訴え、全国一律の明確な基準と、年内に資金が届く仕組みづくりを求めた。
民医連は請願署名活動を継続し、診療報酬の大幅引き上げや緊急支援を政府に求めていく方針で、請願事項は以下の2点。
「医療機関が突然閉鎖し、地域住民の医療に困難が生まれないよう、速やかに必要な対策を講じること」
「医療機関が健全な経営を維持できるよう、医療・福祉に対する税金の使い方の優先順位を引き上げること」
他の病院団体と違い、医療機関や医療従事者だけでなく「地域住民の署名を集めている点が特徴」だといい、来年1月までに署名100万筆を目指すとしている。

