1番から9番まで打者を並べておけば、単純に得点率は上がるかもしれない。実際、2025年シーズンのパ・リーグ総得点は2898なのに対し、セ・リーグは2756だった。投手側からしてもメリットはある。途中で代打を出される心配がないから、長いイニングを投げられるようになるだろう。
※本記事は、江本孟紀著『長嶋亡きあとの巨人軍』より適宜抜粋したものです。

◆セも実施する「DH制」によって失われるメリット
何を懸念しているかというと、「パ・リーグのチームに在籍してはいるものの、実はセ・リーグ向いているかもしれない選手」の存在だ。それぞれの特徴を簡単に述べよう。「ストレートと変化球を投げ分ける投手」と、「ヤマを張りながら対処する打者」が多いのがセ・リーグ。対して、パ・リーグは「速いストレートで圧倒する投手」と、「ブンブン振り回す打者」が多い。各リーグにおける文化の違いは、想像以上に大きいものだ。
いざドラフトで指名した選手が、パ・リーグ向きではないケースも実際にある。最近では、現役ドラフトで移籍した選手の例が分かりすい。
◆「セ向きの選手」が埋没してしまう
2022年オフに、ソフトバンクから阪神に移籍した大竹耕太郎や、24年オフに日本ハムから巨人に移籍した田中瑛斗は、まさにセ・リーグが合う選手だった。大竹、田中は、それぞれ前所属では出場機会が限られていた。だが移籍した途端、水を得た魚のように躍動したのだ。セ・パの違いを察知していた阪神と巨人が、しかるべき人材を獲得した好例だ。
私は、現役ドラフトに限らず、トレードは積極的に行っていくべきだと考えている。ただ、セ・リーグがDH制を導入することによって、今後「セ向きの選手」が埋没してしまう事態を危惧しなければならない。日本の野球界にとっても大きな損失といえよう。
また、どのチームであっても金太郎飴のような野球に終始してしまうのではないか。12球団それぞれが個性を喪失してしまえば、見る側にとっても魅力を感じにくくなるのは、言うまでもない。

