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社会システムをハックして近道をする。橘玲氏が語る「格差社会で少しだけ効率よく生き抜く」方法

社会システムをハックして近道をする。橘玲氏が語る「格差社会で少しだけ効率よく生き抜く」方法

テクノロジーの進化により、金融市場や社会システムがますます複雑化する一方、現代社会には税制や金融システムに「欠陥(バグ)」が潜み、それを利用する人々がいる。そうはなすのは、小説『マネーロンダリング』、『永遠の旅行者』、『タックスヘイヴン』のマネーロンダリング三部作から11年の時を経て、『HACK』(幻冬舎)を上梓した作家の橘玲氏だ。

 富裕層の海外移住から、暗号資産長者の節税スキーム、そして国境地帯で巨大化する国際詐欺ビジネスまで。一見、無関係に見える事象がどのようにつながっているのか、その驚くべき構造を明かす。

◆富裕層がシンガポールやマレーシアを目指す理由


――金融の世界はテクノロジーの発展にともない、小説『マネーロンダリング』が出版された2002年とは様変わりしました。多額の税金を回避しようとする日本の富裕層には、どのような変化が見られるのでしょうか。

橘玲(以下、橘):日本国の居住者は全世界の所得が課税対象になるので、国内の資産だけでなく、海外の銀行や証券会社で運用していて利益が出た場合も合算して納税しなければいけません。

 そうは言っても、2000年頃はまだ海外資産を捕捉する方法がなく、タックスヘイヴンと呼ばれる国や地域の金融機関に口座を作って、無税で資産運用する人が多くいました。

 それがだんだん厳しくなってきて、今では香港やシンガポールの金融機関でもマイナンバーの登録が求められるようになっています。これが「共通報告基準(CRS)」で、それぞれの国の税務当局から、日本人が保有する口座の情報がマイナンバーとともに日本の税務署に送られてくるようになりました。

 それに対して香港やシンガポール、あるいはアラブ首長国連邦やモナコなどヨーロッパのタックスヘイヴンでは金融所得は非課税で、国内で得た事業所得を申告すればいいだけです。一時、日本のお金持ちがこぞってシンガポールに移住したのは、このためです。

 しかし、シンガポールはもう地価・物価が高すぎて普通の人は住めません。では、もう少し住みやすくて同じような税制のところはないかと探すと、次に出てくるのがマレーシアです。国内の金融所得は課税対象ですが国外資産は非課税で、もともと時限立法だったのが2036年まで延長される見込みです。

 タイも基本は同じで、国外資産は非課税という特例が続いていました。だから、資産運用のためにマレーシアやタイに移住する日本人が結構いたんです。

――税金を回避するために、日本の非居住者になったうえで、国外資産に課税されない国に移住するというわけですね。

橘:そうなんですが、今では法律が変わり、株式など1億円以上の資産を保有・管理している人が非居住者になる場合、出国の際に課税(出国税)されるようになりました。

 非居住者の認定が厳しくなったことで、外国の国籍を取得して日本国籍を捨てるという裏技が話題になって、一時期は香港のプライベートバンクにかなりの問い合わせがきたそうですが、出国税(国外転出時課税)は対象者の国籍を問わないので、今ではその道も塞がれました。

◆暗号資産長者が海外へ向かう「制度のバグ」

橘 現在は暗号資産を利用した抜け道が知られています。日本の場合、暗号資産は金融商品と見なされていないので、利益が出ると「雑所得」として課税されます。

 それだけでなく、ビットコインをイーサリアムに交換したり、NFTを買ったり、何か取引をするたびに時価で換算して、利益が出た分を雑所得として申告納税しなければいけません。

 金融所得を分離課税にすると、配当や売却益に対して約20%を納めて課税が完結します。ところが雑所得だと、最高税率は住民税と合わせて55%で、しかも損益通算ができないので、いくら損失が出ても利益に対して課税されてしまいます。

 これはものすごく理不尽なルールで、金融庁から暗号資産も申告分離課税にするよう税制改正の要望が出されています。ところがここに、「制度のバグ」があるのです。

 金融商品の含み益がある人が海外移住しようとすると出国税がかかりますが、暗号資産は金融商品ではないので、このルールの対象にならないのです。

 つまり、暗号資産で何十億、何百億という含み益を持っていても、そのまま海外に出て非居住者になれば、日本国への納税義務がなくなります。

 移住先が国外所得に対して非課税の国であれば、どれほど巨額な利益を得ても、合法的にいっさい税金を払わなくていい。これに気づいた暗号資産長者たちが、出国税の対象になる前にさっさと日本を離れて、東南アジアに移住するようになりました。

 しかしタイは最近税制が少し変わり、海外で運用している資産はこれまで通り非課税なのですが、その資産をタイに持ち込んだ時点で課税されることになりました。いくら海外で資産運用して儲かっても、そのお金を使えなかったら意味がないですよね。私の知り合いは、これが理由でタイを離れ、アラブ首長国連邦のアブダビに移住しました。

 何年か前に、暗号資産で“億り人”になった日本の若者が、税金を逃れるために東南アジアに移住していることを知りました。それから、こうした若者を主人公にして国際金融小説を書けないかと考えはじめて、それが小説『HACK』になったという経緯です。


配信元: 日刊SPA!

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