
果たして、「財務省解体デモ」とは何だったのか? 11月28日刊行の『陰謀論と排外主義 分断社会を読み解く7つの視点』の執筆者の1人である山崎リュウキチ氏は、この運動を最初期から観察してきた人物だ。山崎氏がこの運動に注目した理由は、もともと観察対象にしていた反ワクチン・陰謀論コミュニティとの距離の近さを感じだからだという。山崎氏の予想通り、「財務省解体デモ」は陰謀論と排外主義に飲み込まれ崩壊、その後の反移民運動へと結びついていった。前編では、国民民主党の榛葉賀津也幹事長をして「いてもたってもいられない国民の悲鳴」とまで言わしめた「財務省解体デモ」の、報じられなかった「裏側」について解説してもらった。
◆「ディープステート」の代替概念としての財務省

このユーザーはれいわ新選組の支持者ではあったものの政治活動の経験はなく、ネット上でも無名の人物だったが、反ワクチン系のインフルエンサーが投稿を拡散し、折からの反財務省トレンドに乗って注目を浴びた。反ワクチン系のインフルエンサーが拡散に協力したのは、このユーザーが反ワクチン傾向の人物でそうしたコミュニティへの呼びかけを行っていたこと、そして反財務省言説と陰謀論の親和性の高さが関係している。
税制や財務行政に対する直接の批判とは別に、財務省に対する「予算を人質に取りあらゆる国家機関を裏から支配する黒幕」というイメージを拡大解釈し、何らかの陰謀を実行する秘密結社のように扱う言説もまた広く見られている。2022年にワクチン接種会場襲撃事件を引き起こした反ワクチン団体神真都Qも、この当時はデモ行進で「国民の敵は財務省!」と主張していた。彼らにとって財務省は「影の政府」という本来の意味での「ディープステート」を代替する概念なのである。
◆混沌と化す財務省前

そんな不安をよそに翌月以降「財務省解体デモ」は肥大化していった。インフルエンサーによって街宣の「切り抜き動画」が多数投稿され、現場には複数の配信者と見られる人物が集まるようになる。一方で「風の吹くまま市民団体」は熊本へと活動拠点を移しており、東京での街宣は別々の主催者が「財務省解体デモ」の名を共有して開催するという奇妙な状態となった。ブランドの希薄化が進んでいったのである。
2月21日の街宣の参加者はついに1000人規模に達し、テレビ東京の報道を皮切りに大手メディアも次々に運動を取り上げ始める。この街宣の主催者は2020年から反マスク・反コロナワクチン運動を続ける活動家の塚口洋佑であったが、報道の中には彼があたかも過去の活動を「反省」しているかのように伝えたものもあった。一方で、同じく反ワクチン活動家で2024年に選挙の自由妨害で逮捕・起訴されたつばさの党代表の黒川敦彦は運動を「ユダヤ金融資本による人工革命」と主張し、街宣に対し大音量で音楽を流したり「貧乏人は草でも食っとけ!」などと挑発したりなどの妨害行為を始めた。財務省前はもはやカオスに包まれていた。
冒頭で述べた3月14日、経産省前でNHK党代表の立花孝志が演説を行い、暴漢に切りつけられる事件が発生する。対岸の財務省前では黒川敦彦が呆然と立ち尽くし、場を乱されたことに憤懣やる方ない参加者が卑猥な言葉を拡声器から連呼していた。事件が一旦収束したあとも黒川は残り続け、参加者と口論になった。そこに事情を知らない人物が飛び入り参加するが、うっかり黒川サイドの人物からマイクを借りてしまったことで関係者と誤解され三つ巴の争いになってしまう。松田光世がCIA陰謀論を交えて加勢するなど収拾がつかなくなり、最後は「皆さん財務省解体のために来たんじゃないんですか!こんなことで争ってる場合じゃないでしょう!」という青年の叫びで幕を閉じた。

