高市早苗首相が2025年11月7日の衆議院予算委員会で、台湾有事をめぐり「存立危機事態」に言及して以降、中国政府が態度を硬化させ、日中関係が冷え込んできた。

政治的対立の影響が、経済・市民レベルの往来にまで波及し、とくに観光分野への大きな影響が懸念されている。多額の経済損失を予測する専門家もいるが――。
「訪日自粛」で旅行客のキャンセルが続く
中国外務省は11月14日、「今年に入ってから、日本の治安は悪化」していると、訪日自粛を呼びかけた。
さらに同26日夜には日本の中国大使館が、日本への渡航自粛を再度呼びかけ、日本にいる中国国民に対して注意喚起を促すまでに至っている。
これらの通達は渡航を禁止するものではないが、中国国民に与える影響は極めて大きい。
実際、中国国内の旅行プラットフォーム「携程(Ctrip)」など複数の大手旅行会社は、日本旅行の販売を停止している。
国内の航空・旅行会社では、中国発の団体旅行キャンセルが相次ぎ、港湾寄港の変更も進行中だ。
中国発の複数のクルーズ船は日本寄港を取りやめ、韓国・済州などへ迂回し始めたという動きも報じられている。
香港当局も、地震・台風などの自然災害、クマによる襲撃事案などを含め、「政治的要素に限定されない"広義の安全リスク"」があるとして、渡航への注意喚起を行っている。
今年1~9月における訪日客数全体の23.7%
こうした傾向から、近年"爆買い"などのキーワードに象徴されるように、増加傾向にあった中国から日本へのツアー客が減少することが見込まれる。
観光立国を掲げる日本にとって、看過できない事態である。
野村総合研究所(NRI)の木内登英氏は11月18日、中国からの訪日客数が昨年10月から今年9月までの922.1万人、さらに今年1~9月における訪日客数全体の23.7%と、国別最大であることを指摘。そのうえで、中国・香港からの日本旅行が1年間で25%減少した場合、経済損失は合計1.79兆円、名目GDPを0.29%押し下げると試算している。
この数字には、宿泊・交通・小売といった旅行関連消費に加え、地方への波及効果も含まれる。
短期的には、中国・香港発のキャンセル集中や手配解約によるコスト増、さらに観光業に関わるスタッフやアセットの遊休化も収益を圧迫する可能性が高く、これは観光地の受け皿を整備してきた事業者ほど大きな痛手を被ることになる。