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きっかけは一通のDMから…「メンズエステ」利用者から金を巻き上げる“店ぐるみの美人局マニュアル”とは? 歌舞伎町弁護士が明かす“巧妙すぎる”手口

きっかけは一通のDMから…「メンズエステ」利用者から金を巻き上げる“店ぐるみの美人局マニュアル”とは? 歌舞伎町弁護士が明かす“巧妙すぎる”手口

スマートフォンの画面に表示された一通のダイレクトメッセージ(DM)。

「おめでとうございます!キャンペーンにつき施術料が無料になります」
「今だけ半額でご案内可能です」

日々の疲れを癒やしたい、あるいはほんの少しの好奇心から、そのリンクを開いてしまったとき、あなたの人生を狂わせる歯車が回り始めるかもしれない。

近年、メンズエステ店を装い、利用客を陥れる「美人局(つつもたせ)」被害が増加している。

かつての美人局といえば、サービスの途中でいきなり強面の男が…といった手口が一般的だったが、現代の手口はより巧妙に、より陰湿に進化しているという。

今回は、「日本一の歓楽街」新宿歌舞伎町を中心に弁護活動を行い、こうしたメンズエステをめぐるトラブル対応に豊富な実績を持つ、グラディアトル法律事務所の若林翔弁護士に取材。

急増する被害の実態と、絶対に踏んではいけない「地雷」の正体に迫った。

急増&組織化する犯罪の影

「ここ1〜2年で、相談件数はものすごく増加しています」

開口一番、若林弁護士は危機感を露わにした。

特筆すべきは、その手口の悪質さがエスカレートしている点だ。単に財布の中身を脅し取るだけではない。被害者をATMに連行して現金を引き出させるのは序の口。その場でスマートフォンを操作させ、消費者金融と契約させて借金を背負わせる、あるいはクレジットカードで換金性の高い「金」を購入させるといった事例もあるという。

また、こうしたトラブルは特定のエリアで起きているものではなく、組織的かつ全国で起きているという。

若林弁護士は「もともとぼったくりバーなどをやっていたグループが、メンズエステ美人局に流れてきているのでは」と推察する。

実際、熊本などの地方都市でも逮捕者が出ており、この犯罪スキームは特定のエリアに限らず、日本全国で同時多発的に進行している。もはや「怪しい街に行かなければ安全」という常識は通用しない。

彼らは店舗を持たず、マンションの一室やレンタルルームを転々とし、摘発の網を巧みにすり抜けているのだ。

巧妙なマニュアルの存在

なぜ、これほど多くの男性が罠に落ちるのか。その背景には、初めから恐喝を目的とした「店ぐるみのマニュアル」が存在する。

若林弁護士によると、入店した客に対し、女性セラピスト側から積極的に際どいサービスを持ちかけるケースが多いという。

「マニュアルで『客に体を触らせるように仕向けろ』『きわどい箇所を施術しろ』と指示されている店もあります」(若林弁護士)

密室の中で高まる高揚感。女性からの誘惑。「これくらいなら大丈夫だろう」と客が手を伸ばした瞬間、あるいはサービスの延長で一線を越えてしまった瞬間、状況は一変する。

突然、女性が被害を訴えたり、店の関係者と思われる人物が現れたりして、「警察を呼ぶ」「会社や家族にバラす」と脅迫が始まるのだ。甘い誘惑は、完璧に計算された「仕込み」に過ぎない。

特筆すべきは、集客の入り口が「SNS」や「マッチングアプリ」に集中している点だ。

「DMで『無料』『半額』といった甘い言葉で勧誘してくる店は、圧倒的にリスクが高い。まともな店なら、SNSのDMで個別に執拗な勧誘などしません」(若林弁護士)

また、ネット上に店舗の公式サイトが見当たらず、SNSのアカウントだけで営業しているような店は、名前を変えて犯罪を繰り返す「捨て垢」「幽霊店舗」のような存在である可能性が極めて高いという。

むしろ、健全な店は、透明性のある公式サイトを持ち、適正な価格で営業している。

「自分で行きたいお店のWEBサイトを確認するなど、普通に調べてから店を選べば、このような被害に遭う可能性は下げられるでしょう。

こうした理由からも、SNSのDMやアプリ経由で勧誘してくる店には、行かないほうが賢明な判断だと思います」

被害者が陥る「警察に行けない」心理的ジレンマ

では考えたくないことだが、万が一、このメンズエステ美人局の罠にはまり、高額な示談金を要求されたらどうすべきか。「すぐに警察へ」というのが正論だが、この犯罪の厄介な点は、被害者側にも「後ろめたい事情」を作らせる点にある。

「もし女性の体を触ってしまっていれば、形式上は暴行罪や迷惑防止条例違反に該当する可能性があります。警察に相談に行ったはずが、逆に被疑者として取り調べを受けるリスクもゼロではありません」(若林弁護士)

犯罪グループは、この「客側の弱み」を熟知している。だからこそ、「警察に行けばお前も捕まるぞ」という脅し文句が強烈な効力を発揮するのだ。

しかし、若林弁護士はこう続ける。

「明らかに美人局のスキームであり、組織的な恐喝であると警察が理解すれば、被害者として扱ってもらえるケースも多いです。ただ、自分が『触ってしまった』という負い目がある場合や、美人局かどうかの確証が持てない場合は、弁護士に相談することもお勧めします」

弁護士であれば、守秘義務のもとで状況を整理し、警察に同行して事情を説明したり、相手方との交渉を代理したりすることが可能だ。最悪なのは、恐怖心からその場で示談書にサインをし、言われるがままにお金を支払ってしまうことだ。

「録音」が身を守る最強の武器に

ただし、その場合は「強迫」による意思表示にあたり、取り消すことができる(民法96条1項)。仮に金員を支払ってしまった場合でも、取消しにより示談がハナから無効となるので、取り返すことができる(同121条、121条の2第1項)。また、恐喝罪(刑法249条)ないしは強盗罪(同236条)で刑事告訴をすることもできる。

そこで、被害に遭った際、現場でできる最大の防衛策は「証拠の確保」だ。

若林弁護士は「可能であれば、脅迫(強迫)が始まった段階で録音をはじめてほしい」とアドバイスする。

通常の健全な店では録音・撮影は禁止されているが、相手が豹変し、不当な要求や「ATMに行け」といった脅迫を始めた時点で、それは正当なサービス空間ではない。

「金を払わなければ会社に言うぞ」「借金してでも払え」といった発言が記録されていれば、それは恐喝の有力な証拠となり、警察や弁護士が動く際の決定打となる。

怪しいDMの裏側には美人局という“地雷”が潜んでいることを忘れず、万一巻き込まれてしまったときには、こうした対処法があることを頭に入れておきたい。

配信元: 弁護士JP

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