いつまでも輝く女性に ranune
〈年収850万円〉元国際系通信キャリア会社員が41歳で“郷里Uターン”を選択…収入半減も「もっと早く戻るべきだった」と地方暮らしが充実しているワケ【FPが解説】

〈年収850万円〉元国際系通信キャリア会社員が41歳で“郷里Uターン”を選択…収入半減も「もっと早く戻るべきだった」と地方暮らしが充実しているワケ【FPが解説】

地方で気づいた、在京時にはない「新しい価値観」

お気づきの方もいたかもしれないが、このAさんというのは実は筆者のことだ。宿は福井県大野市という岐阜との県境の地にある。現在は55歳だが、地元ではまだ若手の扱いだ。書いた通り、経済的にはUターンしたときと比べてもぜんぜん改善していないというか、さらに厳しくなっている。

しかしながら、いまの生活はとても楽しい。民泊は昔のユースホステルのような男女別相部屋のドミトリー方式で、食事は宿泊客と同じテーブルを囲み、酒が入りそのまま宴会になる。毎日違うお客さんがやってくるので飽きることがない。酒もツマミも持ち込み自由を謳っているので筆者もお相伴に預かる。

東京にいたときはほぼ毎晩飲み歩き、Uターンしたあともちょくちょく飲み会に顔を出していたが、いまは金を払って外に飲みに行くことは滅多にない。お客さんのうち何人かはリピーターとなり、手土産を持ってきてくれることもある。

夏には300坪ある庭の畑でミニトマトを栽培している。生ゴミをコンポストに入れてできた堆肥などを肥料替わりにしているのでコストはタダ同然だ。7、8月には爆発的に採れるので知り合いに配り歩く。時間を置いてお菓子やスイカやサツマイモなどになって戻ってくる。それを食事としてお客さんに出す。

趣味にもお金をかけなくなった。というよりなにかを買ったり出かけたりしたいという欲望がかなり薄くなった。東京では街はキラキラしたもので満ちていて色々な誘惑があったが、こちらには欲望を喚起するようなものはほぼない。宿には光ファイバーが来ているのでヒマなときには談話室のソファーに寝そべって動画やSNSや電子書籍を見ているだけで時間が過ぎる。

休みの日というのは基本的にないが、毎日昼寝している。朝から夜までぶっ通しで働き続けねばならないような生活には戻れない。そもそも年齢を重ねるといろいろな欲求が減退する。また、東京にいたころはストレスを物欲や酒で発散していたのだということに気がついた。

時間のあるときには山登りやドライブに行く。冬になると車で20分のところにあるスキー場で雪山を滑走する。平日なら50歳以上は1日滑っても2000円だ。なにもない所かもしれないが、季節の移ろいが織りなす近所の風景には心揺さぶられる。

過去を振り返って「もっと早く民泊を…」と後悔

宿泊客同士で交流する、「旅人宿」と呼ばれるゲストハウスの宿主同士でよく話をしたり、SNSで交流したりする。

どこも筆者の宿と同様に儲かっているようには全然見えない、というかイヤなことを我慢してまで儲けようという気持ちが微塵も感じられない。生活費の足しにするためのアルバイトをしながら宿での日々を楽しんでいる。

筆者は宿を始めて3年になるが、そのような時間をより長く過ごし、その分、固定客もついているのだと思うと羨ましい。

筆者ももっと若いころから宿を始めていればよかった。そうすればいまごろ宿はもっと賑わっていただろうし、結婚して家庭を持てたかもしれない。宿を始めるには都会だと開業資金がかなり必要なのだろうが、田舎の空き家をほぼ居抜きで活用しているし、知り合いが手伝ってくれたりしたので、いまの宿はお金をあまりかけずに始められた。もっと若いころに帰郷していても、宿を始められたはずだ。

なぜそうしなかったのか? 地方には高収入が得られる働き口がない、だから生活の質が落ちるのだとずっと思い込んでいた。しかし、都会と地方とではそもそも日常生活のなかに占めるお金の必要性が違うのだ。収入が減ったとしても生活の満足度が下がるわけではないが、そのことをもっと早く知るべきだったし、教えてくれる人もいなかった。

筆者の場合は宿業だったが、都会ならできないけど、地方ならできることは少なくないと思う。例えば、福井でラーメン屋をやっている知り合いは多いが、業績不振で潰れたという話をほぼ聞かない。都会だとラーメン屋といえば“失敗する業態”の代名詞だ。

なぜそうなるのか? 都会で20年近く働き、Uターンして福井で15年生活した筆者が、都会と地方の暮らしについて、特に金のことにフォーカスして今後も紹介していきたいと思う。


小林 恵
AFP
生命保険シニア・ライフ・コンサルタント
住宅ローンアドバイザー
貸金業務取扱主任者

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