工夫とアイデアに溢れた台所を訪ねた&Premium145号(2026年1月号)「料理好きの台所」より、『やわい屋』店主・朝倉佳子さんの台所を紹介します。



機能的ではないけれど、安心感のあるおおらかさが大切。
築150年の古民家だというのに、思いがけず明るい台所だ。正面に設けられた明かり取りの窓から、やわらかな光が注ぎ込んでいる。
台所の主は、飛騨高山の田園に暮らす朝倉佳子さん。夫の圭一さんと民藝の器を扱う『やわい屋』を営む。移築した江戸末期建造の平屋には、店舗とギャラリー、私設図書館、居住スペースが収まっており、全幅の信頼を置く大工の渡邊覚さんと相談をしつつ、4度の改修を経て現在の形に辿り着いた。
台所の躯体はもともと備え付けられていたものを生かして、コンパネを張り、モルタル塗装で仕上げた。ぐるりと台所の周りを囲む白いタイルは剥がしたものを再利用。台所と居間の間にあった土間は長男の十一(とい)くんが誕生したのを機にコンクリートを打ち、室内仕様に。
「台所を明るく、白いモルタルにしたいというのは私の希望です。食材をストックする箱や、ゴミ箱は廃れた感じの白木でシンク下に収まるように。台の角は面取りをしてやわらかく、丸みが出るように渡邊さんに作ってもらいました」
料理は好きだけど得意とはいえないんです、とはにかみながら話す佳子さん。でも、この台所に立つ佳子さんはとても朗らかで楽しそうだ。
「枝豆のヘタは絶対にここで切るんです」とちょこんと座ったのは、居間に上がる段差スペース。台所仕事に疲れたときは、薪ストーブの前の大きな木のスツールに腰掛けてぼんやり気分転換することも。
お昼どき。食事の用意をする佳子さんの傍らに圭一さんが立つ。
「どの器によそおうか」
「(齊藤)十郎さんのがいいかな。丼は(山口)和声さんのにする?」
器の作り手の名が、友人の名前を呼ぶ親密さで交わされる。棚に並ぶたくさんの器、そのひとつひとつの先に作り手の顔が見えている。ここにあるのは、ふたりが縁を紡いできた人の器ばかりなのだ。
「器も道具も使いやすいものもあればそうでないものもある。機能的ではないけれど、がんばらなくてもいい台所。好きなものに囲まれている安心感も私にとって大事なものです」







朝倉佳子『やわい屋』店主
2016年、岐阜県高山駅から車で30分ほどの美しい田園風景の中で、夫とともに『やわい屋』をオープン。「やわい」とは飛騨の言葉で「したく」を意味する。
photo : Yoichi Nagano illustration : Shinji Abe text : Yuko Ota

COOKING LOVERS’ KITCHENS / 料理好きの台所。&Premium No. 145
かつて住まいの裏方であった台所は、いまや家づくりの軸となる、暮らしの中心にある存在になりつつあります。いい台所は、使い勝手のいい台所。使う人が自分自身の勝手にあわせて工夫をするのです。そして自分の勝手というのは、繰り返し料理をする中ではじめて見えてくるものですから、心地のよい台所の持ち主は、すなわち 料理好きであるといえるのではないでしょうか。今号の特集は「料理好きの台所」。手をかけ、使い込んだ台所からは、その人が楽しげに腕を振るう姿や、豊かな食卓や暮らしそのものが透けて見えるようです。すべてのものを取り出しやすくしている人、スッキリ何もない空間で料理に励む人、菜箸や布巾ひとつまでこだわって選ぶ人。工夫とアイデアに溢れ、すみずみにまで目の行き届いた、16組の料理好きのみなさんの台所を拝見します。
andpremium.jp/book/premium-no-145

