
50代を迎え、汗が止まらないホットフラッシュや、原因不明のめまいに、初めて“老い”の現実を突きつけられる女性は少なくありません。さらに、ふと見渡せば60代おひとりさまの「3人に1人は貯蓄ゼロ」という厳しいデータも。「健康」と「お金」、そして「孤独」。人生の後半戦に押し寄せる巨大な不安の波を、どう乗り越えればいいのでしょうか。獅子にひれ氏の著書『定年が気になりはじめた50代おひとりさま女子たちのトリセツ』(ごきげんビジネス出版)より、人生後半を過ごすにあたり必要な準備を紹介します。
50歳からはじまる“人生後半戦”…健康寿命の「あと25年」を豊かに過ごすための3つの準備
これからの人生の後半を考え、50代の私たちは何を意識して、具体的にどんなことをすればいいのでしょうか。この節では、私自身の経験を踏まえ、これは必要だと思うことを3つお伝えします。
1.健康の準備
1つ目は「健康資産を育てる」です。失ってからありがたみがわかっても遅いと思うのが「健康」です。繰り返しいいますが、健康でいられることは決して当たり前のことではありません。
厚生労働省が2023年7月に発表した「国民生活基礎調査の概況」の年代別通院者率を見てみると、年代が上がるほど通院者率は増えていくのですが、なかでも50代は40代のおよそ1.5倍に急増します。なお、通院する人の理由の上位は「高血圧症」「脂質異常症(高コレステロール血症等)」「眼の病気」「歯の病気」「腰痛症」となっています
参考 厚生労働省「2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況」Ⅲ 世帯員の健康状況
女性としては、50代は更年期といわれる変わり目の年代です。近年では更年期症状が原因で仕事が続けられなくなる人も増えており、深刻な社会問題としてニュースになることもあります。私も50代になってから、めまいや耳鳴り、汗が止まらないホットフラッシュに悩まされる時期がありました。「このままでは仕事が続けられないかも……」と思うほどでした。最初は市販薬を服用していましたが、体にあわなくなり、病院に通い漢方薬を処方してもらったこともありました。
ある60代の女性に「50代ってこわいです」と話したことがあります。すると「60代はもっといろいろなことが起きます。くれぐれも筋力強化に努めてくださいね」と言われ、先行きがさらに不安になったこともありました。別の人は「50代のとき仕事中に汗が止まらず、立ち上がると自分の汗がイスに染みているのではないかと思い、こわくて立ち上がれないときもあったけど、60代になると楽になるよ」と話してくれました。
体には個人差があります。一般的に「これがいい」といわれているものを試してみても、同じように効果が得られないと感じた経験は、私だけではないと思います。だからこそ、自分にあった健康維持の方法を見つけるには、まずは自分の体をよく知ることが大切です。
本来、自分の体のことは誰よりも自分が一番よくわかっているはずです。にもかかわらず無理をするのは、車の運転にたとえるなら、壊れかけた車にガソリンも入れず、猛スピードで走り続けているのと同じこと。それではいつか壊れてしまいます。体からのSOSを逃さず、自分でできるケアを実践していくことが重要です。
おひとりさまならなおのこと。定期的な健康診断の受診、体調変化への早めの対応、予防的な健康管理、などがとても大切だと思います。
2.仕事の準備
2つ目は「人生最後の仕事を考える」です。働く目的に「生活をするためにお金を稼ぐ」と考えるのは当然で、大切なことだと思います。そこに不安がないよう準備することは必要です。教育資金・住宅資金・老後資金は「人生の3大資金」といわれています。50代になると、「老後資金」のことをいよいよ考えるようになります。
金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査](令和5年)」の結果によると、金融資産を保有している60 代おひとりさまの保有額は、貯蓄額平均2240万円、中央値は1100万円です。金融資産を保有していない割合は33.3%で、3人に1人は貯蓄がゼロ、という結果です。
この結果に対し、平均以上と安心する人、平均以下と不安になる人、いろいろだと思いますが、これはあくまで平均した数字にすぎません。老後に必要と考えられるお金は、実は人それぞれです。大事なのは、自分の現在地と必要に応じた対応を計画し行動することです。50代からの資産形成は決して遅すぎることはありません。むしろ具体的な行動を考えはじめるのに適した時期だといえます。
老後のことを考えるのは、50代の私たちにとっては切実なテーマです。一方で老前、つまり「現在」はどうでしょう。漠然とした老後生活への不安から、ひたすらお金を稼ぐことを優先してしまい、その結果、無理をしたり、大切な何かを犠牲にしたり、ストレスフルな時間を多く過ごしているとしたら……そして、ようやく老後と思ったときに病気にでもなったら、これはなんだか本末転倒な気がします。
私の場合、病気や離職期間を経て「働くことの意味」を根底から考えることになりました。これまでも会社員という枠組みのなかで好きな仕事をしてきたと思っています。ですが、仕事の目的はどちらかというと「好きだから」よりは「生活のため」のウェイトが大きかったでしょうか。そのため時に無理もしてきたと思います。
介護などの必要がなく健康的に生活できる期間、いわゆる「健康寿命」についてご存知の人も多いと思います。女性の場合、75.45歳(2022年時点)で50代の私たちにとって、この先20~25年です。長いですか? それとも短く感じますか?
60歳が定年だった一昔前なら、50代は定年を控え、第一線から離脱していく年代でした。ですが現在は、年金を受け取る時期も定年の年齢も65歳に伸び、この先さらに伸びる可能性があります。「働く期間が長くなるのなら、自分のやりたい、やりがいのある仕事に就きたい」とセカンドキャリアを考える人が増えてきたのも、そういう社会背景があるからです。
自分に残された「健康で働ける時間」をどのように過ごしたいか。私の場合、必要な老後資金は備えながら、この先を見据えて、より「自分らしく働く」ために、仕事内容や働く環境を見直し、キャリアチェンジを選択しました。漠然と考えるよりも、具体的な計画を立てることで、やりたいことや興味のあることをいまからでも実現できると思えるようになったのです。新しいチャレンジも50代のいまだからできる、そう実感しました。
何かをはじめるのに遅いことはないけれど、早ければ早いほどいいと思います。これまで働き続けてきたからこそ、その集大成となる「人生最後の仕事」について、あらためて考えてみてはいかがでしょうか。
3.つながりの準備
3つ目は「人とのつながりを考える」です。スーパーの閉店が「孤立のきっかけ」になる、というニュースに思わず目を引かれてしまったことがあります。ご主人に先立たれ、郊外に住んでいるひとり暮らしの女性が次のように話をしていました。「これまで買いものに行くときは、スーパーでは団地の仲間と世間話をしたり、子育ての悩みを相談したりする情報交換の場でした。それがなくなって、いまでは1日1歩も外に出ない日もあり、誰とも話さない日もあります」と。
「買いもの難民」という社会課題に加え、これでは「つながり難民」ではないかと思いました。長生きする日本人にとって、これまで経験したことがない大きな変化、といえるかもしれません。
年を重ねると足腰が不自由になる、頻尿などの体の不安から外出せず人と会わなくなる、といった深刻な声も聞きます。女性にとって井戸端会議といわれるようなおしゃべりの時間は、周囲と良好な人間関係をつくる大切な時間です。たとえ「おひとりさま」になったとしても、誰かと「つながり」をもつことが必要です。そうすれば、わずかでも会話が生まれ、孤立したり、孤独を感じたりすることは少ないのではないでしょうか。
私にとって家のなかでしか過ごせなかった病気療養期間は、一見すると、体が自由にならなくなった老後生活を疑似体験しているようでした。ですが孤独には陥らず、むしろ世界が広がる経験をしました。それはインターネット、そしてSNSのおかげでした。
オンラインで友だちと会話を楽しみ、SNSを使って多くの新しい出会いに恵まれました。コロナ禍を経てリモート環境が整った恩恵を、このようなかたちで受けるとは思いもよらず、SNSの醍醐味を味わえたことは衝撃的でした。
総務省「通信利用動向調査」によると、いち早く世の中の出来事や動きを知るための利用メディアに、50代は「インターネット」を利用しているのに対し、60代は「テレビ」を最も利用していると回答しています。この結果に世代の分岐を感じました。また、趣味・娯楽に関する情報を得るための利用メディアとして、50代でネットの利用は72.1%と、すでに定着した情報収集手段のひとつとして利用されていることがわかります。
50代のSNS系サービスの利用率を見ると、LINEやYouTubeはほとんどの人が利用しています。とくに女性の利用率が増加傾向のInstagramでは、写真投稿から健康や美容など個人的な体験に基づく情報を参考にしやすいと感じる人も多いのかもしれません。
出典:総務省情報通信政策研究所「令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」(令和6年6月)
いまから約20年前にX(旧Twitter)やFacebookが日本でリリースされ、いま50代の私たちは当時30代前半あたりで、比較的新しいテクノロジーにも抵抗なく接することができた年代でしょう。アナログとデジタル両方のよさを知っている私たちなら、便利なツールを使いこなして人とつながり、豊かな時間を過ごせると確信しています。
私がおばあちゃんになっても、スーパーが近くになくても、オンラインで友だちとお茶飲み会をし、ネットショッピングで今晩のおかずを買いものし、マッチングアプリで新しいお友だちを見つけているかもしれない。そのように想像しています。
〈参考・出典〉
厚生労働省「2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況」Ⅲ 世帯員の健康状況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ktyosa/ktyosa22/dl/04.pdf 表13、図18参照
総務省情報通信政策研究所「令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」(令和6年6月)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000953019.pdf
獅子にひれ
ライター/AFP
※本記事は『定年が気になりはじめた50代おひとりさま女子たちのトリセツ』(ごきげんビジネス出版)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
