今週のテーマは「結婚相談所で無事に婚約まで至ったのに、破談になった理由は?」という質問。さて、その答えとは?
▶【Q】はこちら:結婚相談所で出会い無事に成婚。しかし、31歳の女が婚約破棄を申し出た理由とは
― どうしよう。
それが、真っ先に出てきた言葉だった。
結婚相談所を介して知り合った哲也とは、驚くほど順調に進み、出会ってからわずか数回で婚約に至った。
しかし実際に婚約をしてから、私は迷いが生じ始めた。
今思い返すと、最初から違和感があった気もする。
― でも、条件で考えれば悪くないし…。でも、本当にこれでいいの?
自分の中で何度も「でも」を繰り返す。
40歳で専門商社勤めの哲也。私より9歳上だけれど、見た目はそこまでおじさんではないし、悪くない。
話していても楽しいし、優しい。
だから彼から「結婚しよう」と言われた時は心底嬉しかった。
しかし結局、どうしても許せないことがあり、私は一度決まった婚約を覆すことにした。
「哲也さん、ごめんなさい。この結婚の話、なかったことにしていただけませんか…」
この決断は正しかったと思う。
A1:積極的に進めてくれるのが良かった。
哲也とは、結婚相談所を介して知り合った。
31歳で、結婚相談所に登録するのは早いとも言われた。しかし地元長野の友達たちはみんな結婚して子どももいるし、東京の同期たちも半分はもう既婚者。
もともと私は結婚願望が強く、早く子どもも欲しい。
そう考えると結婚願望がない人とデートしている時間はない。
そこで相手の身元が最初からわかって、結婚願望がある人が揃っているという意味で効率がよい結婚相談所の門を叩いた。
「31歳、未婚子無し。一橋大学卒業で、長女。現在は大手のメーカーに勤務…」と私のプロフィールは悪くなかったと思う。
だからなのか、結婚相談所へ入所した直後から、たくさんのお見合い話が来た。
お見合い2人目のタイミングで出会ったのが、哲也だった。
京都の国立大学卒業で、専門商社勤務。今年で40歳、バツなし独身。年収や家柄、学歴も申し分なかった。
お見合い当日は、六本木にある外資系ホテルのカフェで待ち合わせをした。5分前に到着したら、哲也はもう席で待っていた。
「初めまして、怜です」
「初めまして、哲也です」
私を見た途端に、さっと席を立って挨拶をしてくれた哲也。待ち合わせ時間より前に到着していることや、しっかり挨拶できる姿から「真面目でいい人なんだろうな」と容易に想像がついた。
また哲也は身長が高く、ヒールを履いた私でも少し見上げるくらいだった。
「身長、お高いんですね」
「そうなんですよ。無駄に185cmもありまして」
「羨ましいです」
「とりあえず、座りますか。何を飲まれますか?」
「じゃあ…カフェラテをいただきます」
簡単な挨拶を済ませて、カフェラテが運ばれてくるのを待つ。
しかしここで、沈黙になってしまった。
― あぁ、何か話さないと。
いつもそうだった。何か盛り上げようと思うのに、上手く言葉が出てこない。
私の周りのモテる女子や結婚している子は、大体気遣いができて、異性に対しても臆せず話せるし“お話し上手”だ。
結局、私が発したのは無難な一言だった。
「何を話せば良いか、迷っちゃいますよね。気軽にお願いします」
すると哲也は優しく私に微笑みかけてきてくれた。
「怜さんのお勤め先は、どの辺りですか?」
「私は日本橋です。哲也さんは?」
「日本橋、いい所ですよね。僕は大手町です」
「そうなんですね。近からず遠からず…という感じですね」
ここから急に話のテンポが良くなり、あっという間に1時間が過ぎる。優しい雰囲気と、無理に話さなくても大丈夫な空気感が心地よかった。
― もう一度、会いたいな…。今度はゆっくり話せるといいな。
そう思っていると、哲也が急に驚く提案をしてきた。
「怜さん、他も何人か進められていますか?」
「実は…はい…」
入会してから知ったのだが、結婚相談所には、「本交際」という他の人とはもう会わないステータスへと進む前に、「仮交際」という制度がある。この期間は、他の人と並行してデートしてもよいということになっている。
だから、初めてお見合いした相手とも「仮交際」していたし、これから他の人にも会ってみたいと思っていた。
ところが哲也は、今日会ったばかりで本交際の申し込みをしてきたのだ。
「ですよね、怜さんモテそうですし。ただ、僕は本交際へ進められたら嬉しいなと思っています」
「え?仮交際もせずにですか?」
順番的に、仮交際をしてから本交際になると思っていた。でも哲也なら、いいかもしれない。
― 運命の相手って、こういうことなんだ。
そう思い、私はその夜、相談所の人へ哲也と本交際へ進む旨を報告した。
A2:男としての器の小ささ、人としての小ささを感じた。
本来ならば何度かデートを繰り返してから「本交際」に進むのだろうが、出会ってすぐに、真剣交際へと進むことになった私たち。
でもだからこそ、お互いのことをもっと知るために真剣にデートを繰り返した。
「哲也さん、結婚したら子どもは欲しいですか?」
ここは、私にとって重要なポイントだった。
私は早く結婚して、早く子どもが欲しい。そう思っている。だからこそ、この擦り合わせは絶対にしておきたい。
「はい。2人くらい欲しいですね。怜さんは?」
「私は1人でいいかなと思ってます」
「そうですか…」
「あ、でももちろんそれはタイミングとか、神様のみが知るというか…。とりあえず早く結婚したいと思っています。早ければ早いほどいいですね」
「そうですよね」
哲也は、物事を進めるペースは早いけれど、今回の真剣交際へ進む前にも、「焦らずにゆっくり考えてください。怜さんのお気持ちが優先なので」と言ってくれた。
だから、この強引な感じが嫌ではなかった。
しかしデートを繰り返しているうちに、少しだけ気になることが出てきた。
「怜さんは、どうして結婚相談所に入会されたんですか?プライベートでも、出会いとか多そうなのに」
「ちゃんとした相手が良くて…。結婚相談所だと、お相手の学歴とか家柄とかも、クリアに見れるので」
結婚相談所は、嘘がない。それがとても良かった。
しかしこの話をしている時の、哲也の言い方が私はとても気になってしまった。
「わかります。そこは大事ですよね。僕も、相手は家柄が大事だと思っていて。すごく裕福でなくても良いのですが、僕の稼ぎに寄生するような家柄は嫌だなと」
― 寄生って…。
親に何かあるかなんて、誰にもわからない。自分たちが今後どうなるかも、わからない。
「ちなみに、結婚後も怜さんはお仕事を続けられるんですか?」
「はい、そのつもりです。ダブルインカムの方がいいなと思っていて」
「それは大事ですよね」
結婚しても、仕事は続けたい。それは本心だ。
でももし仮に、私が今の仕事を急に辞めなければならなくなったり、病気になって働けなくなった時。彼はそっと寄り添ってくれるのだろうか。
そしてこの不安が決定的になったのが、哲也にプロポーズされた時のことだった。
「怜さん。僕と結婚してください」
順調すぎて驚いたけれど、プロポーズしてもらえるのは純粋に嬉しいし、このチャンスを逃したくない。
だからもちろん、返事はYESだ。
「もちろんです…」
感動で、言葉に詰まる私。
「本当ですか?じゃあ僕たち、結婚相談所を退会しないとですね」
「そうですね。嬉しい限りです」
相談所は、結婚が決まった時点で退会となる。これは幸せな退会だ。しかし次の発言に、私は耳を疑ってしまった。
「でも、成婚料を払うのってなんかもったいないですよね。怜さんのところは成婚料いくらですか?」
結婚相談所は、システム的に、成婚となると成婚料を支払うのがルールだ。お互い結婚相談所を介して知り合っているため、それぞれが登録している相談所にきちんとお礼を兼ねて支払う…それが、当たり前のこと。
しかしまさかの、その成婚料をもったいないと言い始めた哲也。
彼のこの発言に、私は驚いてしまった。
「その分を、二人の結婚式費用とかに回せたらなって思っちゃいますね…」
「そうですか」
そういう問題ではない。
相談所にはお世話になっているし、成婚料を支払うのは当然のことだと思う。たった数ヶ月で結婚できたのだからむしろ安いとさえ感じる。もし成婚料がもったいないと感じるなら、初めから成婚料を取らないタイプの相談所に入会すればよいだけの話だ。
それを今さら、しかも私の前で成婚料を支払いたくないと言い出す哲也に一気に冷めた。
― この人と結婚して大丈夫?
お世話になった人に感謝を伝えられない人とは、一緒にいられない。きっと結婚しても身近な人に対しても、常に損得感情で判断するに違いないと感じた。
結婚はしたいし、哲也を逃したらこんな条件がいい人は現れないかもしれない。
でも、結婚前から信頼関係を崩すような人なんて御免だ。
― むしろ結婚前に、彼の本性を知れて良かった。
そう思い、私はこの婚約の破談を申し入れた。
▶【Q】はこちら:結婚相談所で出会い無事に成婚。しかし、31歳の女が婚約破棄を申し出た理由とは
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