◆高市首相の認知度の高さはインバウンドの恩恵?
この2、3年、日本を旅行したり、日本行きを計画しているアメリカ人の知人は各段に増えた。銀行やデパートの店員でも、こちらが日本人だと知ると「日本に行ってみたいんだ」と話しかけてくる。最近では、アジア系スーパーでなくても出汁用の昆布を販売しているところがある。ニューヨークなどの都市部では日本食、日本文化への関心が以前に比べて高まっている。郊外の町でも日本食を名乗る店を探すのは難しくなくなった。
高市首相の認知度が他の歴代首相より高いとしたら、インバウンドの恩恵が少なからずあったのかもしれない。
米国メディアは、高市首相の政治姿勢など硬派なニュースだけでなく「サイドネタ」も報じている。衆院予算委員会に向け午前3時から勉強会をしたことなどは格好のネタだった。
ニューヨーク・タイムズは高市首相が持ち歩く黒いトートバッグに焦点をあてた記事を大きく載せた。台湾についての発言をめぐり日中関係がぎくしゃくしているが、就任1カ月を見る限り、米国メディアは硬軟取り混ぜて高市首相を取り上げていた。
◆安倍政権がアメリカにもたらした「日本ブーム」

’12年12月16日に実施された総選挙で自民党が圧勝し、26日に安倍第2次内閣が誕生した。それまで日本株はグローバルな投資家に相手にもされていなかった。しかし、安倍政権は大胆な金融緩和によるデフレ脱却を掲げたことで、世界の投資家から注目され、、本格的な投資の対象となった。
アメリカ市場での「日本ブーム」は安倍内閣が発足する前、つまり総選挙前からすでに過熱していた。この年の11月に出稿した原稿や取材メモをひも解くと「市場では安倍自民党総裁は(民主党の)野田(佳彦)首相以上の存在になっている」「市場関係者の中にはマーケットははしゃぎ過ぎだとの声もあるぐらいだ」などの文言が並んでいる。
常に織り込み済みで動くのがマーケットだが、一国の選挙が行われるかなり前から結果を見越して株が買われるという異様な動きに、裏に何か仕込まれたものがあるのではないかと疑ったほどである。
この時、外国為替市場では日々、円安が進んだ。発足前から安倍内閣の目論見通りに円相場が動いていた。
高市首相は安倍内閣の政策を継承するという。首相就任後はさらなる円安基調になっており、安倍内閣の発足時と同じ流れをたどっている。
高市首相とすれば、安倍元首相のように「1強」と呼ばれるほどの頑丈な政権基盤を作りたいところだ。しかし、マーケットは高市首相にやや厳しめである。これ以上の円安は物価高を助長するだけで日本国民の人気を得る材料にはなりそうもない。
アメリカでは新しい大統領が就任して100日間、国民は様子を見るという慣例がある。100日過ぎても高市首相がアメリカのマーケットの注目度を維持するためには、単に安倍内閣の政策継承に留まらない独自色の強い政策を次々と送り出す必要がありそうだ。
【谷中太郎】
ニューヨークを拠点に活動するフリージャーナリスト。業界紙、地方紙、全国紙、テレビ、雑誌を渡り歩いたたたき上げ。専門は経済だが、事件・事故、政治、行政、スポーツ、文化芸能など守備範囲は幅広い。

