
◆「財務省解体」から「移民反対」へ
今年の前半、「財務省解体デモ」なる社会運動が話題となったことを覚えているだろうか。東京・霞ヶ関の財務省庁舎をはじめ各地の財務局周辺に「財務省解体」を主張する人々が集まり、街宣活動が行われた。3月14日の「全国一斉財務省解体デモ」は千人単位の参加者を数え、複数の大手メディアでも報道された。前回は、今年前半に話題となった「財務省解体デモ」の陰謀論にまみれた実態と、その盛衰について論じた。今や見向きもされなくなった「財務省解体デモ」であるが、この運動はその後思わぬ方向へと繋がってゆく。実は、最近各地で行われている「移民反対」の街宣やデモは、そのほとんどが「財務省解体デモ」を源流としているのである。本稿では引き続き、11月28日の発売以降大反響となっている『陰謀論と排外主義 分断社会を読み解く7つの視点』の執筆者の1人である山崎リュウキチ氏にその経緯について振り返ってもらった。
◆自民党本部を「呪殺」

参加者に目立ったのは「自民党は中国を優遇している」という主張であった。ある女性は「岩屋(毅)は死刑だよ!殺すんだよ!」と叫んだ。当時石破政権下で外務大臣を務めていた岩屋は、昨年12月に中国人向けビザの取得要件の緩和を表明したことから「中国寄り」とみなす向きがあり、「65歳以上の中国人をビザなしで入国させる」などの誤情報も飛び交った(緩和措置自体も現時点で実施されていない)。ちなみにこの女性はその後、自民党本部ビルに向かって「呪詛」のようなものを唱えると、人差し指と中指を揃え「自民党を焼き尽くせ!エーイッ!」と叫びながら突き出していた。
「財務省解体デモ」には元々排外主義的言説が飛び交っていたが、「自民党解体デモ」以降は「財務省」というクッションが取り払われたことで急速に先鋭化していった。8月31日には同じ主催者が首相官邸前で「石破やめろデモ」を行う。街宣の先頭には「財務省解体」系の団体と「日本列島100万人プロジェクト」の幟が見られた。参加者の列は国会記者会館周辺のブロックを半周以上する距離まで伸び、1000人単位の参加者を集め、「財務省解体」からのトレンドの移り変わりを如実に表していた。
名目こそ「石破やめろ」であったが、街宣の後半では列の中から口々に「岩屋もやめろ!」との声が飛び交い、「自民党解体デモ」と地続きの運動であることが明らかだった。先述の「自民党はショッカー」の男性は今回も参加しており、「不正選挙の証拠」なるチラシを配布していた。また「製薬会社(DS)のコロナワクチン詐欺から日本を守ろう」というプラカードを持参した男性は、隣の参加者と「日航123便事故の真相」について語り合っていた。参院選での自民党の大敗を受けた石破政権の動向が注目されていた時期であり、大手メディアも取材に訪れていたが、こうした背景に触れたものはなかった。

