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「財務省解体デモ」が排外主義運動へと変貌するまで。人々の“あやふやな不安”を後押しに

「財務省解体デモ」が排外主義運動へと変貌するまで。人々の“あやふやな不安”を後押しに

◆あやふやな不安

10月10日、国会議事堂前「日本政府・全省庁解体デモ」
10月10日、国会議事堂前「日本政府・全省庁解体デモ」
 この「自民党解体デモ」の流れを引き継いで生まれた「JICA解体デモ」(8月27〜29日)や「東京都エジプト合意撤回デモ」(9月12日〜)などが、その後の排外主義運動を形作ってゆく。一見様々なテーマについて別々にデモや街宣が行われているように見えても、それらのほとんどは「財務省解体デモ」を源流とする一連の流れの中にあり、その影響を受けた人々が看板を改めながら運動を繰り返しているのが実態である。そして、その中心にあるのが、反ワクチン・陰謀論コミュニティで活動するインフルエンサーだ。

 SNS上で排外主義を煽るインフルエンサーは、過去には「財務省解体デモ」の動画を投稿していたり、さらにその前にはワクチンに関する誤情報を拡散していたりするケースが多い。また、後述の「全国一斉移民政策反対デモ」の企画が行われたLINEのオープンチャットは、もともと「財務省解体デモ」の情報を集約するために政治系インフルエンサーが開設したものが流用されている。バラバラにも見えるテーマを結びつけているのは「日本政府は国民の代表者ではなく、何らかの勢力の走狗として動いている」という漠然としたナラティブであり、現実と乖離した世界観を共有する、一種の「オルタナティブな政治空間」が形成されているのである。

 その一つの帰結といえるのが、10月10日に行われた「全省庁解体デモ」である。字面だけ見ると極めてアナーキーな印象を受けるが、ここでいう「全省庁」は「何らかの勢力に支配された政治」の言い換えであり、国会議事堂に向かって各々の政治不満を叫ぶ催しとなっていた。主催者は「自民党解体デモ」のボランティアを務めていた人物で、反ワクチン・反移民を訴えていた。「全省庁が解体されれば入国管理制度も崩壊するのでは」といった疑問は、前提を共有している参加者の間には存在しないのである。

 参院選前後より、移民排斥的な言説を支持する声に対し「素朴な不安」と表現する論評がしばしば見られるが、少し物事を綺麗に捉えすぎているように感じる。先述の「東京都エジプト合意反対デモ」にて、筆者に対し「モラルの通じない(外国の)方が来るのは嫌」と述べた参加者に「今回の合意はむしろ外国人に日本で働く際のモラルを学んでもらうための政策なのではないですか」と問うてみたことがある。参加者は一瞬固まった後、「説明不足だと思います」と繰り返し、筆者の見解に対する賛否を述べなかった。政策について直接調べたり議論したりせず、インフルエンサーの発信をそのままなぞっているように感じた。これは「素朴」というよりも「あやふや」と表現するべきではないだろうか。

◆背景を理解することの重要性

10月19日、新宿の「東京都エジプト合意撤回デモ行進」に帯同する反ワクチン活動家
10月19日、新宿の「東京都エジプト合意撤回デモ行進」に帯同する反ワクチン活動家
 10月26日に全国各地で行われた「全国一斉移民政策反対デモ」のうち、筆者は名古屋駅前で行われた街宣を観察した。「移民反対」に並んで「財政の民主化」という幟が掲げられ、反ワクチン活動家の街宣車から「日本列島100万人プロジェクト」のメンバーが緊急事態条項反対を訴えていた。緊急事態条項も反ワクチン・陰謀論コミュニティで「ワクチン強制が行われる」として槍玉に上がるテーマだ。反ワクチン、反財務省、反移民の一体性が視覚的にも明らかだった。

 現場には「カウンター」や「プロテスター」と呼ばれる、街宣に対し野次を飛ばしたり音を鳴らして対抗する集団が詰めかけており、主催側の「挑発に乗るな」との呼びかけも虚しく参加者の中からは飛びかからん勢いで反撃しようとする者が次々現れ、警察官に引き剥がされるなど混沌とした状態となっていた。その一方で、街宣を中心からやや離れた場所で聞いている参加者に対しては説得を試みる人々もいた。

 そのうちの一人は筆者に「まだ引き戻せそうな人とは対話をしている。だが、10年前のヘイト運動とは明らかに層が違う。陰謀論者が多くて会話が通じないことが多い」とため息混じりに語っていた。実際、激しく罵声を浴びせ合っていた参加者の男性と話をしたところ「挑発に乗っちゃいけないのはわかっているんだけどね。分断を煽って漁夫の利を得るのがユダヤ資本、ディープステートのやり方だから」と真剣な顔で述べていた。

 排外主義運動について、メディアにおいては「不安への寄り添い」を軸に、参加者個人のライフヒストリーに焦点を当てた報道が多く見られる。だが、デモは決して自然発生するものではなく、必ずそこに「煽る」側の存在がある。寄り添うにせよ立ち向かうにせよ、その両側面についての理解がなければ的外れな見解を生みかねない。『陰謀論と排外主義』は、報道が軽視しがちな「煽る」側の歴史や実態について網羅的に論じられている。本書が、社会の分断を食い止めるための助けとなることを願う。

<取材・文・撮影/山崎リュウキチ>

【山崎リュウキチ】
90年代後半生まれ。オウム真理教事件に興味を持ったことをきっかけに、高校時代よりカルトや過激思想についての情報を収集。コロナ禍以降は陰謀論関係の社会運動を中心に観察し、ネット上での発信を行う。共著書に『陰謀論と排外主義 分断社会を読み解く7つの視点』(扶桑社新書)。Xアカウントは@y_ryukichi
配信元: 日刊SPA!

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