進学で開けた起業への道
──フットケア外来が軌道に乗ったのに、大学院への進学を決意されたのはなぜでしょう?
フットケアが、フレイル(加齢による心身が虚弱状態に陥ること)予防につながっているのか知りたくなったんです。そこで、フットケアスクールの先生と知人の看護師に話したところ、「大学院で研究してみたら?」と答えたんです。信頼できる人たちがこう言うならと思い、大学院進学を決意しました。
──働きながらの受験勉強はさぞ大変だったのでは?
塾に通うことも考えましたが、費用が高くて断念しました。なので、毎朝出勤前にカフェに寄って勉強するのを習慣にして、半年間の勉強期間をなんとか乗り切りました。
──入学後もクリニック勤務は継続していたんですか?
社会人が多く、多くの学生が入学後も仕事を続けていたので、私も日中は変わらず働いていました。授業は平日18時〜21時までが週2日、土曜朝から夕方までの計3日です。
ところが実際に講義が始まってみると、課題が多く、資料作成や発表が想像以上にハードでした。常勤だった人が非常勤になったり、パートになったり、退職したりという変化を多く目の当たりにしました。私は途中で病気になり入院する必要があったので、半年間の休学も経験しました。
──それは大変でしたね……。休学で出勤回数や勤務時間は調整したのでしょうか?
はい、入院期間中は休み、復学時はパートとしてシフトを減らしてもらいました。自費で通っていたこともあり、「いまは仕事より学業」と割り切って、専攻以外の経営などの分野も受講していました。この専攻外で受けた講義がきっかけで、いまの事業ができたんです。
──講義をきっかけに起業というのは?
民間企業も参加する講義で、学生が発表したアイデアを事業化する取り組みがありました。そこで、臨床でも座学でも10年以上の経験を積んできたフットケアの事業化案をプレゼンしてみようと思い、挑戦したんです。すると、東京の大手コンサルティング会社が興味を示してくれました。プレゼンからわずか2ヶ月後には出資が決まり、フットケアサロンとして事業化する準備が始まりました。
──もともと起業を考えていたんですか?
いえ全く考えていませんでした。ただ、これまで培った技術や経験が、事業として通用するのか試してみたいという気持ちはありました。また、一人では不安でしたが、出資会社がサポートしてくれたので、「一緒にどんなことができるんだろう」とワクワクしたのも大きかったです。
出資が決まった5月から半年ほどは、ブランディングやコンセプトづくり、自分の強みの整理など「こんなにやるんだ」と驚くほどたくさんの準備を重ねました。テナントの物件探しや施術メニューの考案などはほぼ自分一人で進め、学業や仕事、家庭と両立しながら、なんとか2024年5月に素足再生サロン「VISOK(ビソク)」を開業することができました。
25年の“根拠ある施術”が強み
──25年以上経験した医療現場と比べると、サロンでの接客や経営などは全くの別物だったのでは?
いまだに「開業して良かったのか」と悩むほど、事業の運営に戸惑う日々です(笑)。医療では、患者さんの困っている箇所を治すのが目的ですが、サロンでは、美しい足にすることを目的にかかとや足裏の肌、爪のケアをします。なので、お客さまの話をじっくり聞いて、きれいにする、満足してもらうことがゴールです。
看護師しか経験してこなかった私にとって、最初はこの違いに戸惑い、どうすれば満足してもらえるのか不安で仕方ありませんでした。なので、経営者の集まりに参加して、同じ立場の方によく相談しています。
──オープンから1年半が経ちますが、運営上の悩みはありますか?
フットケアは夏に需要が高く、冬は客足が遠のいてしまうことです。この課題については、いまビジネススクールで対策を学んでいます。
──では、反対に他店と比べての強みは何でしょう?
やはり看護師として25年以上の臨床経験がある、専門性が高い点ですね。足をケアするお店はたくさんありますが、スクールや大学院でも学んできたので、エビデンスに基づいた施術ができる点はほかにない強みだと思っています。

