不育症治療の負担と仕事との両立の課題
――流死産を繰り返した場合は、不育症の治療に取り組む方も多いと思います。そうした治療にはどのような負担があるのでしょうか。
中塚:まず、経済的な負担が存在します。不妊治療は保険適用となり、自治体独自の助成も拡大しつつありますが、不育症の診察では保険適用の部分は少なく、自費の検査や治療となると高額となることがあります。
また、数々の検査を重ねても原因が特定できないケースも多くあります。明確なリスク因子が見つけられれば治療方針も決まり、成功率も推測しやすくなります。
一方、原因が見つからず、「どこも悪くない」と言われた不育症の方の心境は複雑です。「そんなことはないよ」と説明しますが、「自分が動き過ぎたから流産したのでは」「体を冷やしたのが悪かったのでは」などと、自責感が強くなり、心理的負担となりやすいこともあります。そういうなかで流産を繰り返したり、死産を経験したりというのはさらなる心身の負担となります。
働いている方の場合、妊娠週数が早い段階では周囲に打ち明けにくいこともありますね。しかし、体調によっては、仕事を急に休まなければいけないこともある。そうした状況への理解が得られず、仕事を辞めたり、辞めなくても昇進に影響したという声も聞こえてきます。

個別相談や当事者間の支え合い、医療と心理が連携する包括的支援
――「不妊・不育とこころの相談室」はどのような支援を行っているのでしょうか。
中塚:私たちの相談室は、厚生労働省が各都道府県に不妊専門相談センターの設置を求めたことを受け、岡山県からの委託により2004年に設立されました。現在は、「メールや電話での相談」「対面での個別カウンセリング」「市民公開講座などによる啓発」、そして「ピアサポート(※)の場の提供」を中心に支援を行っています。
不妊カウンセラーや心理士による「個別カウンセリング」では、傾聴と共感を基本方針としています。多くの当事者が「話をよく聞いてもらえていない」と感じている場合もあるため、まずはしっかりと話を聞き、ご自身の気持ちを吐き出していただくことを大切にしています。
中塚:「個別カウンセリング」では医師による「医療情報の提供」も行います。検査結果の解釈や治療方針の説明、地域の医療機関の情報提供などを行います。
設立当初から重視してきたのは、当事者の立場に寄り添える多様な専門職が関わることです。医師からの言葉だけでは、どうしても距離を感じてしまう方が多いため、助産師や臨床心理士、看護師などがチームを組んでそれぞれの専門性を活かしながら対応しています。
――ピアサポートグループ「ママとたまごの会」について教えてください。
中塚:流産や死産を経験した方、不育症の方同士が集まって、お互いの思いや体験を分かち合う場です。最も大きな意義は、参加者が「自分は一人ぼっちではない」「自分と同じような経験をした人がいる」と実感できることだと思います。
流死産は日常生活では話題に出づらく、多くの当事者が孤立しています。だからこそ、同じ経験をした方と出会うことで孤独感が大きく軽減されます。治療により既に子どもを持っている方の体験談を聞くことで希望を見出すきっかけにもなります。
――相談室が岡山大学病院内にある利点を教えてください。
中塚:医療面と心理面の両方から包括的なケアを提供できることです。検査結果について疑問があれば即座に医学的な説明ができますし、必要に応じて適切な診療科を紹介することも可能です。
精神的に深刻な状況にある方については、院内の精神科と連携を図ることもできます。岡山大学病院の産科病棟では、周産期喪失を経験したカップルやご家族へのサポートであるグリーフケアを行っています。退院後はさらに、相談室での心理的支援に引き継ぐことが可能です。
中塚:具体的にグリーフケアでは、亡くなった赤ちゃんのための小さな衣服や棺、手形や足形をとる色紙などの準備、また、家族の面会時間の確保など、赤ちゃんのためにできることをリスト化しています。また、赤ちゃんを抱いたり写真を撮ったりすることなど、このように赤ちゃんとお別れする家族に寄り添ったケアを実践しています。しかしグリーフケアでは「何をするか」ではなく、「どのようにカップルや家族の悲嘆をやわらげるか」が重要です。
こうした医学的なケアと心理的サポートを同時に提供できる体制が整っていることが大学病院内にある「不妊・不育とこころの相談室」の大きな強みだと思います。

- ※ 「ピアサポート」とは、同じ病気や立場にある、同じ課題に直面している仲間との支え合いのこと

