12月1日、全国の公務員を対象に実施されたカスタマーハラスメント(カスハラ)に関するアンケート調査の結果が発表された。
調査に参加した約7万人のうち、半数が「職場でカスハラを受けた経験がある」と回答し、4割が「健康状態に影響があった」と答えるなど、公務員の深刻な現状が明らかになった。
政治家からの無理な要求、暴行やインターネットでの誹謗中傷も…
「日本自治体労働組合総連合」(自治労連)は、全国の市役所・役場や自治体病院などで働く公務公共労働者を対象にした組合。「働くみんなの要求・職場アンケート」を例年実施しているが、今回初めて「カスタマーハラスメントに関する項目」を盛り込んだところ、7万1191件の回答が寄せられた。
うち約半数(47.6%)が「職場で一度でもカスハラを受けた経験がある」と回答。年齢別では30代が最多(56.8%)で次点が40代(53%)、職種別では公衆衛生が最多(70.1%)で次点が一般事務(65.5%)。
また、「受けたことがあるカスハラの主な内容」(複数回答可)の項目では「侮辱・大声で威圧するなどの乱暴な言動」が最多の84.4%。次いで「明らかな嫌がらせによる長時間の拘束(窓口・電話など)」が48.8%、「不必要・執拗(しつよう)な上司への面会要求」が28.8%、「不当な謝罪の要求(口頭・文書など)」が26.3%。
特徴的な項目としては、「議員(政治家)からの無理な要求」(9.3%)、「殴るなどの暴行」(5.2%)、「金銭や契約などの不当な要求」(3.2%)、「インターネット上への職員個人を攻撃・誹謗(ひぼう)中傷するような掲載・書き込み」(2.9%)などがあった。
自治労連中央執行委員の松橋崚介氏は、長時間の拘束や執拗な要求などのカスハラが業務時間を著しく消耗させることで、公務員の時間外労働を増加させている側面もあると指摘した。
公務員へのハラスメントは地域住民にも悪影響
アンケートによると、カスハラ被害を受けた公務員のうち43.7%は健康状態にも影響があったという。また、2.3%は「仕事を休まざるを得なくなった」と回答している。
近年は地方公務員の長期病休のなかでも「精神および行動の障害」によるものが急増している。地方公務員安全衛生推進協会の調査によると、2013年度から2023年度の10年間で約1.9倍に増えていた。
また、仕事について「非常にやりがいがある」と回答していた公務員でも40.9%がカスハラにより健康状態に影響を受けていた。松橋氏は「やりがいの喪失による退職、過酷な職場環境が社会的に認知されることによる(公務員の)なり手不足など、カスハラが公務や住民生活に与える影響は甚大です」と語る。
「カスハラ対策には、職員を守る視点だけでなく、住民の権利を守る視点も必要です。職員を守ろうとするあまり、住民の正当な意見を排除したり、意見することを萎縮させたりすることがあってはいけません。
また、カスハラをしてしまう住民の背景には、行政への何かしらの不安や不満があることが多いと思われます。職員が一人ひとりの住民に寄り添った対応を心がけることは必要ですが、仕事にある程度の余裕がなければ、そうした丁寧な対応は難しくなってしまいます。
カスハラ対策に限らず、質の高い行政を実現するには、職員の人員増などによって自治体・自治体関連職場の体制拡充を図ることが重要です」(松橋氏)
自治労連書記長の橋口剛典氏も「カスハラとなるような要求を住民が行う根本には、国や自治体の制度不足がある」として、過去20年間ほどにわたる過度な人員・予算の削減が原因で公務員が住民の要求に応えられなくなっている問題を指摘。
「カスハラは許されない、カスハラはNOだというメッセージを強く掲げるとともに、労働組合が自治体と協力していくことで、職員と住民の権利を守っていきたい」(橋口氏)
「正当な要求」と「カスハラ」の線引きは難しいが…

自治労連で公務災害を担当している山口真美弁護士は、顧客からのクレームや苦情が必ずしもハラスメントとなるわけではなく、不平・不満を聞くことが業務改善や新たな商品・サービスの開発(民間企業の場合)につながるケースもある、と指摘する。
「他方で、クレーム・苦情のなかには不当なものや過剰なものが含まれており、それが従業員に過度に精神的なストレスを感じさせるとともに、通常の業務に支障が出る場合もあり、労働者保護・損失防止のための対策が求められている」(山口弁護士)
労働者を保護するためのカスハラ対策は民間でも急務とされている。公務職場では「住民要求の実現」や「行政サービスの充実」が求められるなどの特殊性に配慮した対応が必要になるが、公務員にも民間労働者と同等の保護が必要である、と山口弁護士は指摘。
カスハラ対策のガイドラインとしては、現状では東京都の制定した「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針」が最も参考になるという。
具体的な対策としては、クレーマーなどに複数人で対応するための体制整備(人員増)、職場ごとの対策マニュアルの策定などが挙げられる。また、アンケートでは職場内でカスハラを相談する窓口が「分からない」とする回答が6割を超えたことから、相談窓口の周知と整備・体制強化、さらに弁護士などの第三者相談窓口の整備が必要とされる。
今年6月に改正された労働施策総合推進法では、カスハラ防止が企業の義務とされた(2026年施行予定)。同法では、顧客や取引の相手方などによる言動・要求の内容や手段・様態のうち「社会的通念上許容される範囲」を超えるものをカスハラと定義している。
具体的には「そもそも要求に理由がない」「対応が著しく困難または対応が不可能な要求」「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「威圧的な言動」「継続的、執拗な言動」など。
とくに公務の現場では、過度なカスハラ対策は住民の正当な要求をふさぐ危険性がある。山口弁護士は、カスハラか否かの線引きには難しさがあると指摘しつつ、条文や裁判例などに示されている具体的な定義・指針に基づき適切なカスハラ対策をしていくことは可能であると語った。

