27年間の賃金の変化でも日独の違いは明白
図表4で比較している各国の賃金の変化を見ると、1995年から2022年の27年間、日本はほとんど増えていない。日本人はいくら働いても、否、働けば働くほど賃金が下がっていく国に住んでいる。真面目に仕事をするのが、ばからしくなる。そうした人々の気持ちが、日本を泥船のように沈ませている。
[図表4]各国の賃金の変化
ドイツの賃金は、1995年から2022年の27年間で、19.4%増えている。アメリカのこの間の賃金上昇はプラス45.6%と素晴らしい。賃金だけを見ても、国民を不幸にする日本政府の経済政策は間違っている、と言わざるをえない。一方、ドイツもアメリカもこの間の政府の経済政策は間違っていなかったことがわかる。
日本の賃金水準は、1995年にはOECD平均であったが、2022年にはOECD平均の82.3%、アメリカの60%まで低下してしまった。今、「日本人の賃金はアメリカ人の半分」とよく言われるが、まさに正しい。日本政府の経済政策が日本人をここまで貧しくしてしまったのである。
日本企業は、外国人投資家による株取得が増えた結果、利益が株主への配当に回され、雇用者に支払う賃金が減っていった。
国内投資が減っている日本の衰退は必然?
日本は国内投資を抑え、雇用者数とその賃金、能力開発投資を抑え、非正規雇用を増やしてきた。その代わり、海外投資を増やし、海外での生産比率を高めてきた。日本の経常収支を見ればわかるように、その成果として海外で得た利潤が、国内の日本企業に戻ってきている。
2023年の日本の海外生産比率は36%である。一方、ドイツは約25%である。だがその内容を見ると、日本は、自動車が約5割、電機は約4割が海外生産となっている。戦後、日本の高度成長は、自動車と電機が車の両輪として支えてきたと言われている。だが、自動車生産の約半分は海外に出て行ってしまった。電機もまた4割が海外生産である。
1990年頃のバブル崩壊以降、国内市場だけでは売上増が見込めないため、海外市場を目指して、海外生産が活発化し、日本企業の海外生産比率が高まった。特に、資本力と技術力がある大企業ほど海外で生産するようになった。
業種では、自動車、電機、化学と、生産性が高く国際競争力がある業種から外国に出て行った。その結果、国内には、海外に出ていく力のない、生産性が低い企業・事業所が残った。国内需要の低迷で、製造業の雇用者数も減少した。
一方、ドイツは、生産性上昇分を輸出し、国内雇用は増え続けた。海外に出て行った日本と国内で生産を続けたドイツとでは、雇用に大きな差が生まれた。
岩本 晃一
経済産業研究所 リサーチアソシエイト
元日本生産性本部 上席研究員
