いつまでも輝く女性に ranune
マイナ保険証移行の裏で…旧保険証「来年3月まで使える特例」国はなぜ“公式発表”しない? 元官僚の弁護士が指摘する“意図”とは

マイナ保険証移行の裏で…旧保険証「来年3月まで使える特例」国はなぜ“公式発表”しない? 元官僚の弁護士が指摘する“意図”とは

従来の健康保険証(カード、紙)は12月1日をもってすべて有効期限が切れ、マイナ保険証に一本化されることになっていた。しかし、10月末時点でマイナ保険証の利用率は37.14%(厚生労働省調査)と低迷。

これを受け、厚生労働省は、12月2日以降も、従来の健康保険証(カード、紙)を2026年3月末まで条件付きで使用できるとする特例措置を打ち出している。

この特例措置は日本医師会、日本薬剤師会等の業界団体に対する「事務連絡」として告知されている。しかし、一般国民には公式には公表・周知されていない。

そこにはどのような問題があるのか。元総務省自治行政局行政課長で、弁護士でもある神奈川大学法学部の幸田雅治教授に話を聞いた。

厚生労働省の「事務連絡」の内容とは

厚生労働省による事務連絡には、「健康保険証の有効期限満了に伴う暫定的な取扱い(令和8年3月31日まで)」として、以下の通り記載されている。

「12月2日以降、期限切れに気がつかずに健康保険証を引き続き持参してしまった患者や、保険者から通知された『資格情報のお知らせ』のみを持参する患者については、加入している保険者によらず、保険給付を受ける資格を確認した上で適切に受診が行われるよう、 被保険者番号等によりオンライン資格確認を行うなどした上で、3割等の一定の負担割合を求めてレセプト請求を行うことが可能です。こうした対応は令和8年3月までの暫定的な対応であり、次回以降の受診時にはマイナ保険証か資格確認書を必ず持参いただくよう呼びかけてください」

しかし他方で、厚生労働省はこの扱いについて国民に一切周知を行っていない。

幸田教授は、この通知には以下のような問題点があると指摘する。

神奈川大学法学部 幸田雅治教授

幸田教授:「従来の健康保険証の特例措置は、国民に直接影響するものであり、広く国民に周知するとともに、保険者にも周知するべき事柄です。それにもかかわらず、業界団体への事務連絡だけを発出するという対応は、国民への目線を欠いたものと言わざるを得ません。

国民に関係のある通知類(事務連絡を含む)は、すべてHPに掲載するなど、国民に広く周知するべきです」

幸田教授は、通知等が情報提供される意義として以下の4つを挙げる。

①国民への情報提供を通じ、政策の周知が図られる
②通知が誤った法解釈をしている場合、国民が指摘することによって改善を図ることができる
③政策の推進を図る様々な関係者が、政策の推進に協力したり、参加したりできる
④他の類似の政策にも応用することができる

幸田教授:「健康保険証に関係する通知類は、業界団体に発出したものを含めて、自治体や保険者に情報共有することはもちろん、自治体や保険者にも、文書で通知(事務連絡を含む)すべきです。

なぜなら、健康保険に関する事務は、これら関係機関が協力して事務を行っているからです。国の責任として、こういった対応を取ることは当然です」

では、なぜ、厚生労働省は上記のような対応をとっていないのか。

幸田教授:「こそこそと業界団体にのみ通知しているというのは、『マイナ保険証に関するこれまでの失政を知られたくない』という姑息な考えに基づくものだと推察されます。

しかし、これは、国の業務のあり方という点では、まったく国民の方を向いていない証左であり、間違っています。

速やかに対処すべきこととしては2つあります。

第一に、HPにアップするとともに、広報媒体やマスコミを通じて、広く周知するべきです。

第二に、自治体や保険者にも、文書で通知することによって、健康保険業務を適切に執行できる体制を整えるべきです」

マイナ保険証の利用率「37.14%」にとどまっている背景

従来の健康保険証を廃止し、マイナ保険証に一本化する政策については、様々な問題点が指摘されてきている。利用率が10月末時点で37.14%にとどまっていることはその一つの現れといわざるを得ない。

厚生労働省は、マイナ保険証のメリットとして以下を挙げている(同省HP参照)。

①データに基づくより良い医療が受けられる
②手続きなしで高額療養費の限度額を超える支払いが免除
③救急現場で、搬送中の適切な応急処置や、搬送先の選定などに活用される
④マイナポータルで確定申告時に医療費控除が簡単にできる
⑤医療現場で働く人の負担を軽減できる

しかし、実際には認証に手間取った、氏名の一部が「●」で表示された、有効期限切れになっていた、などのトラブルが相次いで報告され、報道もされている。

なお、一時期マイナ保険証を推進する立場から「マイナ保険証のメリット」の重要なものとして「本人認証が厳格になるので、なりすまし等による不正利用を防止できる」という点が盛んに強調されたことがあった。しかし、それを裏付ける客観的データがなく、合理的な論証もなされていないこともあり、現在では「メリット」として挙げられていない。

幸田教授は、「本来、デジタル化を推進する目的は、国民に利便性の高い手段を提供し、選択の幅を広めることにある」と指摘する。

幸田教授:「たとえば、台湾でIT担当相を務めたオードリー・タン氏は、デジタル化は『国民に力を付与すること(エンパワーメント)』だと述べています。

ところが日本では、デジタル化の目的について『デジタル社会の実現に向けた重点計画』や『オープンデータ基本指針』などで『手続きのデジタル化』や『データの利活用』のみが強調される傾向があります。

しかし、それでは高齢者や障がいを持つ方など、デジタルに対応できない人、対応が困難な人が置き去りにされるおそれがあります。

プラスティック・紙の保険証も、マイナ保険証も、どちらも利用できるように選択の幅を広げればいいのに、マイナ保険証への一本化によって、国民はかえって不便になってしまいます。選択の範囲を狭めるのは、デジタル化の本来の趣旨にも、法の下の平等の要請にも反しています」

個人情報保護の観点からのリスクも懸念

幸田教授はそれに加え、現行のしくみでは、国民の個人情報が流出するリスク、不正利用されるリスクがあると指摘する。

幸田教授:「マイナンバー制度の下で、情報が一元的に管理されるおそれがあります。

諸外国のマイナンバー制度では、権限を有する者による不正利用等ができないようにするため、情報連携に第三者機関を介在させるしくみがあります。ところが、日本にはそのようなしくみがありません。

個人情報の適正な取扱いを確保するための機関である『個人情報保護委員会』は、そこに関与する権限を持っていません。

つまり、権限を有する者が『その気』になれば、すべての情報に不正アクセスすることや、情報の不正利用ができてしまう状態にあるのです。しかも、それを外部からチェックすることも困難です。

現状、政治家に対する不信が広がっており、政府内に時の権力に忖度(そんたく)する官僚が存在していることを考慮すると、この点はきわめて深刻な問題といわざるを得ません」

なぜ、12月1日をもって従来の健康保険証の期限が切れたにもかかわらず、その後も従前のように利用できるような特別措置をとるに至ったのか。「混乱を避けるため」というならば、そのような事態を招いた要因はどこにあるのか。検証は不可避のはずである。

わが国が国民主権に立脚した民主主義国家である以上、その前提として、行政には特別措置の内容、およびそれを実施するに至った理由について、国民に説明する責任があるといわざるを得ないだろう。

配信元: 弁護士JP

あなたにおすすめ