いつまでも輝く女性に ranune
外国の専門家も驚く独特な日本の信託税制。外国信託を組成する際に留意しなければならないこと【弁護士が解説】

外国の専門家も驚く独特な日本の信託税制。外国信託を組成する際に留意しなければならないこと【弁護士が解説】

外国信託とは、外国の準拠法に基づいて、外国で組成された信託を指します。外国信託を利用する日本居住者も少なくありませんが、日本の信託税制は諸外国と比較すると独特で、その点を理解していない外国専門家が組成することで思わぬ問題が発生することがあります。本稿では、外国信託の日本での法務・税務の取扱いに関する留意点について、解説します。

そもそも外国信託とは?

外国信託とは、外国の準拠法に基づき外国で組成された信託をいいます。

富裕層の保有する資産やエステートプランニングスキームは多様ですが、富裕層が英米法系諸国に資産を有する場合、信託を利用したプランニングは必ず現地の専門家から提案されることになります。

信託には、柔軟かつ継続的な財産管理や資産承継が可能になるという利点があります。加えて、信託財産への移転によってプロベートを回避でき、米国の場合は節税効果を得られることも少なくありません。

そのため、富裕層ファミリーが現地に居住している限り、外国信託の利用は税務上大きな問題にならないケースが多いといえます。もっとも、信託当事者に日本居住者が含まれる場合には、日本の税制を考慮した対策が不可欠です。日本の所得税・相続税は、住所や居所を基準とした課税体系をとっているためです。

さらに重要なのは、日本における信託課税の考え方が、諸外国と比べて極めてユニークであるという点です。

今回は、外国信託の日本での法務・税務の取扱いに関する留意点について概観します。

外国信託の留意点

◆法務上の取扱い

日本は、信託の準拠法や承認に関するハーグ条約を批准しておらず、「法の適用に関する通則法」(以下「通則法」)にも信託に関する明文規定はありません。このため、外国信託の準拠法は解釈に委ねられています。

もっとも、通則法の立法担当者の見解や判例(知財高判平成24年2月14日)および学説によれば、信託契約の成立・有効性については法律行為に関する規定が適用され、当事者の合意で準拠法を指定していればその法が適用されます。指定がなければ、最密接関係地法によるとされています(通則法7条)。

通常、外国信託では契約上明確に準拠法が指定されているため、準拠法の選択で問題となることは多くありません。準拠法上有効とされる信託は、日本でも通則法に基づき有効と認められます。ただし、外国法上の有効性確認は現地専門家に依頼する必要があります。また、法的に有効だからといって、日本の税務上も同様に扱われるとは限りません。

◆税務上の取扱い

1. 日本の信託に関する課税

信託に対する課税は、複数の類型に分けて課税ルールが決まっています。民事信託に関係する課税ルールとしては、受益者課税信託と受益者の存しない信託が主に問題となります。

日本の課税関係は、経済的実質にしたがって組み立てられます。受益者としての権利を現に有する者がいる場合、日本の税務上、受託者は名義上形式的には信託財産の所有者とはいえますが、受益者が経済的実質を得ているとみなし、信託財産に帰属する資産・負債・収益及び費用のすべてが受益者に帰属するものとして所得税が課税されます(所得税法13条1項)。

適正な対価を負担せずに信託受益者となる場合、その受益者は、信託効力発生時に、信託に関する権利を委託者から贈与・遺贈により取得したとみなされます(相続税法9条の2第1項)。日本の民事信託の場合、受益者を指定していることが多いため、この受益者課税原則が適用されることになります。

一方、受益者等が在しない信託については、受託者に法人税が課税されることになります(法人税法4条の2第1項)。

受益者等が存しない信託とは、「将来誕生するかもしれない孫に財産を取得させる信託を設定する」というように、受益者が現在存在していない信託をいい、受託者には贈与があったとして法人税課税がなされ)(所得税法6条の3第7項)、委託者には受託法人に対する贈与を行ったとして、委託者が個人である場合は、みなし譲渡所得(所得税法59条)が発生することがあります。

さらに、将来存在する受益者等となる者が、委託者の親族であるときは、相続税・贈与税が課税され(相続税法9条の4第1項)、既に支払済みの法人税は控除されます。

受益者等が存しない信託は、相続税に関する基礎控除や配偶者控除の適用がありません。また、受益者等の存しない信託の場合、設定時に受託者法人に贈与したとて法人税課税されるため、キャピタルゲイン課税が相続、贈与によって繰り延べられることなく、みなし譲渡課税がされることになります。

受益者等が存しない信託への課税ルールは、世代を飛ばすことで相続税・贈与税を回避する信託を利用した租税回避を目的とした将来の受益者に対する代替課税ともいえますが、通常の相続・贈与と比較して過大な課税にもなることに留意が必要です。

2. 外国(米国)の信託に関する課税

米国の民事信託は、信託期間中、信託から生じる利益は原則として信託に対し課税され、受益者に分配される場合は、課税所得から控除され、受益者に課税されます。したがって、受益者に分配されない限り、受益者は課税されないのが原則です。

また、信託への財産譲渡は、贈与税の対象になるものの、市場価格での委託者によるみなし実現があったとはされず、委託者の負担で委託者が譲渡をして信託が取得したとみなされます。

ただ、委託者が、信託の財産の元本、収益又はその双方について、実質的な支配権を有している場合(グランタートラスト)は、信託に対し課税されることなく、委託者に所得税・遺産税が課税されることとなります。

米国以外の他国の制度もそれぞれ微妙に異なりますが、信託の設定等にかかる相続税・贈与税及び受益者として何ら現実的な経済的利益を得ていないにもかかわらず課税される受益者課税信託は、外国の信託課税と比べるとかなり特異なものといえ、この信託課税の相違から、日本で外国信託の取扱いが問題となる場合、難しい問題が生じることがあります。

3. 外国信託の日本における税務上の取扱い

租税法固有の概念を除いては、租税法が用いる概念は、私法において用いられる意味と同一に解すべきという統一説が、判例・通説・実務的な考え方とされています。ただ、外国信託のような外国法の概念が日本の租税法上どのように扱われるかは、外国信託については直接正面から検討した判例はなく、学説レベルにおいても議論もされ尽くされていない状況です。

もっとも、デラウェア州法を設立準拠法とするLimited Partnershipの法人該当性が問題となった事案について、ある組織体が租税法の法人に該当するかは、我が国の課税権が及ぶ範囲を決する問題として、①当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において、日本法上の法人に相当する法的地位が付与されているかを検討し、これができない場合に②当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべきとした最高裁判決(最判平成27年7月17日)等を考慮すると、外国法を準拠法とする外国信託においては、当該準拠法による信託の概念・仕組みは理解し考慮した上で、日本の信託法の概念をベースに租税法の適用を検討することが合理的であると考えられます。

外国信託の税務上の取扱いを正面から検討した判例は現時点で出ておらず、今後も外国信託については専門家としても明確な回答が出しにくい状況が継続するようにも思われます。

ただ、エステートプランニング及びファミリーガバナンスとしては、日本の現在の税制・判例を考慮して可能性のあるリスクを洗い出し、そのリスクヘッジをしつつも、ファミリーの希望をなるべく活かすプランニングが求められるものと考えています。

問題はそのリスクの洗い出しすらしないまま、あるいは不十分なままエステートプランニングを敢行してしまう専門家も少なくないということです。また逆にリスク回避のために外国信託を利用しないといった極端なアドバイスをされる専門家も少なからずいるということです。

外国信託を利用することが依頼者ファミリーにとって有用な事例はあります。ただ、そのためには、日本の専門家と外国信託を組成する側が緊密に連携して進めていくことが不可欠ということです。

酒井 ひとみ
シティユーワ法律事務所

あなたにおすすめ