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「非正規にも退職金を」同一労働同一賃金ガイドライン“初”の見直しで「格差」大幅縮小に期待も…“原資”は正社員の待遇削減でねん出?【弁護士解説】

「非正規にも退職金を」同一労働同一賃金ガイドライン“初”の見直しで「格差」大幅縮小に期待も…“原資”は正社員の待遇削減でねん出?【弁護士解説】

厚生労働省は11月21日、正社員と、パートタイムなど非正規雇用の労働者の不合理な待遇差を禁止する指針「同一労働同一賃金ガイドライン」の見直し案を示した。働き方改革関連法の施行5年後の見直しの一環で、指針の見直しは初。

パートなのに社員より仕事ができ、現場で不可欠な存在に。非正規社員だが、部署の誰よりも頼りにされている。

こうした優秀な人材が、正社員でないという理由だけで、報酬などの待遇面で、不遇に扱われている――。「同一労働同一賃金」はまさに、この格差をなくすために打ち出された施策だ。働き方改革でも重要な位置づけとなっている。

見直し案に加わった6つの項目

今回、初めて見直された指針は家族手当や住宅手当、夏季冬季休暇などにも踏み込んでおり、格差是正の推進が期待される。

労働問題に詳しい向井蘭弁護士は、今回の見直し案を以下のように評価した。

「今回の見直しは、近年の最高裁判決(メトロコマース事件判決(令和2年(2020年)10月13日)、大阪医科薬科大事件判決(令和2年(2020年)10月13日)、日本郵便事件判決(令和2年(2020年)10月15日)など)の判断基準を行政指針として明確に『ルール化』した点において、実務的な影響力があります。

今回は退職手当や家族手当といった具体的な手当についても『不合理な待遇差は許されない』という基準が明記されました 。これにより、企業側は『正社員だから』『非正規だから』という抽象的な理由での待遇差を維持することが一層困難になり、労働者側にとっては待遇改善を求めるための具体的な根拠が得られたと言えます」

ポイントは退職手当、家族手当、住宅手当、夏季冬季休暇、褒賞、無事故手当などが具体的に記載されたことだ。こうした手当は、「正社員の福利厚生」とみなされがちだったが、支給要件を満たす場合、非正規労働者にも支給、あるいは均衡のとれた待遇が求められることになる。

具体的には、たとえば、契約更新を繰り返して継続勤務が見込まれる場合、家族手当や退職手当の不支給が「不合理」と判断される可能性が高まる。

退職手当なら、その性質が「長期勤務への功労報償」である場合、長期間働いている非正規労働者に対して全く支給しないことは不合理となる可能性も。

家族手当についても、扶養家族の生活費補助という目的であれば、非正規であっても扶養家族がいれば支給すべきという解釈が成り立つ。特に「相応に継続的な勤務が見込まれる」場合は、正社員と同一の支給が求められると明記された。

見直し案に加わった6つの項目

合理的/不合理をわけるライン

では、「合理的」と「不合理」を分ける客観的な線引きはどこに引かれたのか? 向井弁護士は説明する。

「『将来の役割期待が異なる』といった主観的または抽象的な説明だけでは、待遇差の正当化理由として『足りない』と明記されています。

また企業は『職務の内容(業務内容+責任の程度)』や『配置の変更範囲(転勤や昇進の有無)』といった、客観的かつ具体的な実態に照らして説明する必要があるとされています。

たとえば、具体的には次の通りとなります。

1.業務の実態: マニュアルや責任の重さが正社員と本当に違うか?

2.手当の目的: その手当は「重い責任」に対するものか、それとも「通勤費」や「食事代」のように業務内容に関係なく発生するものか?

もし、手当の趣旨が非正規労働者にも当てはまる(例:同じように通勤している、同じように危険な作業をしている)にもかかわらず支給されていない場合、その差は『不合理』である可能性が高いと言えます」

「正社員だから」と漠然と考えられていた非正規との待遇差が、同じ仕事内容なら不合理であると明確にされ、鋭く切り込んだ形だ。

待遇はよくなっても「不安定さ」どうなる?

「同一労働同一賃金」にフォーカスすれば、求められていた部分であり、現状に則した見直しにみえる。一方で、「雇用の不安定さ」の解消はどうなるのか?

「ガイドライン自体は『待遇差(賃金や休暇など)』の解消を目的としており、有期雇用契約という契約期間の定め自体(雇用の不安定さ)を直接解消するものではありません。

しかし、今回の改正案では、有給の病気休職について、継続的な勤務が見込まれる場合は、正社員と同様の給与保障も求められています。

労働者は、単に『正社員か非正規か』という入り口だけでなく、自身のライフスタイル(転勤の可否など)に合わせて働き方を選びつつ、今回のガイドラインによって『待遇面での理不尽な格差』が是正されているかどうかを比較検討材料にすべきでしょう」(向井弁護士)

非正規の待遇アップの‟原資”は正社員の待遇削減?

非正規の待遇が改善される方向性がより明確になった今回の見直し案。その待遇アップの“原資”はどこから捻出されるのか…。

「ガイドライン案では、待遇差の解消にあたって、通常の労働者(正社員)の待遇を引き下げることは『望ましい対応とはいえない』と明記されました 。あくまで非正規側の引き上げによる改善が基本です。

もし企業がコスト削減のために正社員の待遇を一方的に引き下げる場合、就業規則の不利益変更にあたるので、原則として労働者の合意が必要です(労働契約法9条)。

例外的に合意がなくても認められるのは、その変更を労働者に周知させ、かつ変更に『合理性』がある場合に限られます。その場合も、予め変更しない合意があった部分については基本的に変更が認められません(同法10条)。

単に『非正規の待遇を上げる原資がないから正社員を下げる』という理由は、合理性が認められにくいと考えられます。正社員・非正規を問わず、安易な引き下げには同意せず、その変更が必要不可欠なのか説明を求める権利があります」(向井弁護士)

政府は「我が国から『非正規』という言葉を一掃することを目指す」という文言で、働き方改革実現へ強い意欲を示している。今回のガイドライン見直しにも、妥協はみられない。

「政府の宣言は、雇用契約の形式(有期か無期か)にかかわらず、同じ仕事をしていれば同じ待遇が得られ、多様な働き方を『自由に選択できる』社会を目指すということにほかなりません。

法的な『働くこと』の定義は、これまでのような『正社員=安定・高待遇』『非正規=不安定・低待遇』という身分的な二元論から、『職務(ジョブ)と責任の範囲に応じた公正な処遇』へとシフトしていくと予想されます」(向井弁護士)

終身雇用制をベースとした‟正社員神話崩壊”が叫ばれて久しいが、非正規の不遇な時代にピリオドが打たれるとすれば、そのとき社会に地に足をつけ、力強く歩むために、なにが必要なのか…働き続ける以上、労働者は常に考え、アップデートし続けなければいけない。

配信元: 弁護士JP

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