
「離婚する気力はないが、一緒に暮らすのは限界」――そんな熟年夫婦の現実的な選択肢として「卒婚」が注目されています。別居や離婚の最大のハードルとなる「住まい」の問題を解決する「贈与税の配偶者控除」とは? Aさんの事例を通じて、FP1級の川淵ゆかり氏が解説していきます。※事例は、過去の夫婦間の贈与相談をプライバシーのため一部脚色して記事化したものです。
帰省した娘が震えた、実家の「異様なスッキリ感」
Aさん(29歳)には、32歳の夫と1歳の娘がいます。現在は育児のため仕事をしていません。先日、娘を連れて1ヵ月ぶりに実家に帰ったところ、家の様子がさっぱりしていていつもとは雰囲気が違うことに気が付きました。父親は58歳、母親は55歳。まだ家の中を整理するには早い年齢です。
3LDKの家に1人でくつろいでいた母親は、いつもよりニコニコして機嫌がいい様子。Aさんが「お母さん、断捨離でもしたの?」と問いかけると、母親は笑ってこう答えました。
「そうねぇ。あえていうなら夫婦関係の断捨離かしら。卒婚したのよ、私たち。お父さんの定年前にお互いの関係を見直しておこうと思ってね」
両親の唐突な「卒婚」にショックを受ける娘
最初は言葉の意味が理解できなかったAさん。「卒婚てなによ! 離婚したの? なんでそんな大事なことを話してくれなかったの?」と驚きますが、母親は「あら、離婚しないのが卒婚よ。籍はそのままだし、あなたは大げさよ」とあっけらかんとしています。
“卒婚”とは、戸籍上の婚姻関係を維持したまま、夫婦が互いに干渉せず、それぞれ自由で自立した生活を送る新しい夫婦の形です。
離婚とは異なり、法的な夫婦関係は継続するため、相続権などは消滅しません。煩雑な離婚手続きや世間体を気にする必要がなく、夫婦それぞれが自由に生活できるメリットがあります。一方で、婚姻の権利関係は継続しているため、新たなパートナーと関係を構築すると、不貞行為として慰謝料請求の対象となることもあるというデメリットもあります。
また、生活費はどうするか、介護状態になった場合はどうするか、といった点も事前に話し合っておかないとトラブルに発展するリスクもあります。
家を手に入れた母親、賃貸へ追われた父親
「お父さんはどこにいったの?」と聞くAさんに、母親は「会社の近くの1Kの賃貸マンションに引っ越したわよ。通勤が楽になって喜んでるんじゃない?」と答えます。
Aさんは、どちらかというと亭主関白な父親が出ていったことが信じられませんでした。しかし母親は続けます。
「だって、私が出ていったらあなたは私に子どもを預けることもできなくなるじゃない。それにお父さんはこの家を私にくれるっていうのよ」
Aさんは、両親になにが起きたのか、とても不思議に思いました。
