
徐々に暑くなってくるこの時期は、心拍数が高くなったり血流量が増えたりして、心臓や血管に負担がかかりやすいとき。心臓や血管の働きを東洋医学では心(しん)と呼びますが、心には“こころの働き”も含まれているため、心に負担がかかると“こころの不調”も現れやすくなると考えます。
そこで今回は、暑さによって心に負担がかかると現れやすい、“こころの不調”をケアする養生法をご紹介します。
夏は心(しん)に負担がかかり、こころの不調も現れやすい

1年を約5日ごとに区切った「七十二候(しちじゅうにこう)」というこよみでは、5月31日~6月4日は「麦秋至(むぎのときいたる)」という時節になります。麦が実りを迎える時期を意味するのですが、「初夏なのになんで秋?」と思ってしまいますよね。これは、実りの季節といえば秋であることから、麦が実るこの季節を「麦の秋」や「麦秋(ばくしゅう)」と呼ぶため。「秋」とつくのにどちらも初夏の季語だというから、おもしろいですね。
旬を迎える大麦と小麦はどちらも体の余分な熱をとる食材なので、まさにこれからの季節に最適ですが、特に小麦は五臓の心(しん)の働きを助けて精神を安定させる性質もある特徴的な食材です。
「50代のこよみ養生 Vol.27」でも触れましたが、夏(立夏〜大暑)は心の働きがさかんになる季節です。働きがさかんということは負担がかかりやすいということなので、不調も現れやすいということ。東洋医学における心とは、心臓や血管の働きに加えて“こころの働き”も含まれているので、夏は心の“こころの働き”に関わる不調も現れやすい季節なのです。
心の“こころの働き”が正常であれば、精神が充実して安定し、意識がはっきりして頭が冴え、反応が早く、頭の回転がよくなります。
反対に、心の“こころの働き”が不調になると、不眠、夢をよく見る、情緒不安定、ぼんやりする、もの忘れ、記憶力や集中力の低下など、さまざまな精神的症状が現れやすくなります。
心に負担がかかりやすいこれからの季節は、小麦をはじめとする心をサポートする薬膳や生活養生、心の働きを助けるツボ押しなどで、メンタルケアをしていきましょう。
メンタルの不調別・心の働きを助ける薬膳&生活養生

ここからは、心との関わりが考えられるメンタルの不調別に、養生法をご紹介していきます。
◉精神的な疲れ、無力感、ぼんやりする
心気(しんき=心のエネルギー)が不足している可能性があるので、心気を補う養生を行いましょう。心気とは心臓や血管を活動させるエネルギーで、不足すると身体面では動悸、息切れ、動いていなくても汗が出るなどの症状が見られ、精神面では上記の不調のほかに不眠などが現れやすくなります。
心気が不足するのは、虚弱体質や慢性的な病気、老化などのほかに、考えすぎや思い込みすぎなども原因に。がんばりすぎたりものごとに真面目にとり組みすぎていたりすると、心気が不足しやすくなるので、適度に息抜きをすることを意識してください。こまめに深呼吸をすることも、心気の補給になります。
食事面では、なつめ、はちみつ、鶏肉、牛肉、牛乳などが心気不足の予防や改善に役立ちます。
◉もの忘れ、驚きやすい、記憶力・集中力の低下
心血(しんけつ=心臓と血管をめぐる血液)が不足している可能性があります。心血は脳や精神の栄養源となるものなので、不足すると脳の働きが低下したり精神が不安定になったりして、上記の症状や、不眠、夢を多く見るなどの不調が現れやすくなります。そのほか身体面では、動悸、めまいなどが見られるようになります。
心血の不足は、虚弱体質や慢性的な病気などのほかに、胃腸が弱っているために栄養を吸収する力が低下していることや、ストレスによる血の消耗などが主な原因。胃腸の調子を整えるために規則正しい食生活を意識し、特に冷たいもの・甘いもの・脂っこいものなどは控えめにしましょう。また夜はゆったり過ごして休息し、睡眠をしっかりとることも心血の不足を防ぐために大切です。
そして食事面では、にんじん、ほうれん草、レーズン、黒ごま、たまご、ハツなどの食材を積極的にとり入れるといいでしょう。
◉落ち着かない、笑いが止まらない
心陰(しんいん=心臓や血管の水分・潤い)が不足している可能性があります。心陰が不足すると精神が高ぶりやすくなるため、落ち着かない、笑いが止まらなくなる、不眠、夢を多く見るなどの不調が現れる場合が。身体面では動悸、胸苦しさ、ほてり、寝汗などがよく見られます。
心陰不足の主な原因は、慢性的な病気のほかに、考えすぎや神経の使いすぎ、夜遅くまで活動している、夜に運動している、お酒の飲みすぎなど。夜はできるだけ活動を控えてのんびり過ごし、日付が変わる前に就寝しましょう。お酒も控えめに。
心陰を補う食材には、アスパラガス、たまご、牛乳、かき、緑茶、クコの実などがあります。
◉イライラする、混乱しやすい
心に余分な熱がたまっている可能性があります。長期的なストレス、辛いもの・脂っこいもの・味の濃いものの食べすぎ、お酒の飲みすぎ、喫煙、強壮剤の飲みすぎなどが原因で心に熱がこもり、上記のような精神的症状や不眠、ひどくなると興奮して騒いで落ち着かない、怒りっぽくなるなどの症状が現れる場合があります。身体面では顔が赤くなる、のどがよく渇く、胸苦しい、体の熱感、便秘、できもの、口内炎などが現れやすくなります。原因となる食生活を見直し、熱を発散するために適度に運動をして汗をかくと改善につながります。
食事面では、心の熱を冷ます小麦、にがうり、キュウリ、トマト、すいか、緑茶や、体内の余分な水分とともに熱を排出するあずき、はと麦などをよくとるといいでしょう。

