
7月12日〜16日は七十二候(しちじゅうにこう)の「蓮始開(はすはじめてひらく)」。蓮が花開く頃となります。蓮はそのほとんどの部分が薬膳や漢方の原料に使われている植物で、特に真夏の養生に最適な食材がたくさん。熱中症や夏の不眠、イライラ、日焼け対策などに、ぜひ活用してください。
江戸時代、蓮(はす)を見物する「蓮見(はすみ)」が夏の風物詩だった

1年を約5日ごとに区切ったこよみの「七十二候(しちじゅうにこう)」では、7月12日〜16日は「蓮始開(はすはじめてひらく)」となります。「蓮が開花しはじめる頃」を表す呼び名であり、蓮が見頃を迎えることを告げています。
しかし、現代人の私たちには蓮の花を見る機会があまり多くはありません。蓮は池や沼に生息する植物で、その花は夜明けとともに咲きはじめ、昼頃には閉じてしまうからでしょう。早朝に花開く姿を見物する「蓮見(はすみ)」は、江戸時代の夏の風物詩だったとか。春は花見、夏は蓮見、秋は月見、冬は雪見と、江戸の人々は季節を楽しむ粋人でした。
蓮は澄んだ水よりも泥水で育つほうが美しく咲くことから、「泥中の蓮(でいちゅうのはちす/はす)」とも言われます。もとは仏教の言葉で、煩悩にまみれた世の中でも清らかに生きる姿や、逆境に負けずに生きる姿、悩みや苦しみがあるからこそ幸せになれる、などのたとえとしてよく用いられる表現です。きっと蓮見の魅力は、泥に咲く花に心が洗われ、救われる思いがすることにもあるのでしょう。
蓮の名所といえば上野の不忍池が有名ですが、全国にも蓮が栽培されている植物園などがあるので、ぜひこの時期に蓮見を体験してみたいですね。
生か加熱か、調理方法で変わるれんこんの薬膳効果

蓮は、すさまじい生命力を持つことでも知られています。かつて、埼玉県行田市の工事現場から1400~3000年前の蓮の種が偶然出土し、自然に発芽して開花。その蓮は「古代蓮(こだいはす)」と呼ばれるようになり、その後栽培されて現在もたくさんの大輪の花を咲かせています。
泥沼でも気高く咲き、数千年もの歳月を生きながらえる蓮。極楽浄土の花と言われるだけあってまさに手を合わせたくなりますが、さらにありがたいのは、そのほとんどの部分が食材や漢方の原料として用いられているということです。
その筆頭はやはり、蓮の根であるれんこん。私たちにとってなじみ深い食材ですが、薬膳にも用いられていて、生で食べる場合と加熱して食べる場合とでは効能が変わるとされています。
生や湯通しなどの軽く加熱したれんこんには、体の余分な熱を冷まして水分を生み出す性質があり、熱中症の予防に適しています。おすすめの調理法はピクルスで、原料となる酢の酸味には収れん作用があって汗のかきすぎを抑えるので、体内の水分保持に役立ちます。
一方、煮物や炒め物などのよく加熱したれんこんの場合、血(けつ≒血液)を補って傷んだ肌の再生を促す性質があるので、肌の日焼けをケアする食材としてもぴったり。皮膚の乾燥をやわらげるごまと組み合わせたれんこんきんぴらは、日焼け肌のダメージ対策薬膳となります。そのほか、加熱したれんこんには胃腸の調子を整える性質もあるので、胃腸が弱くて疲れやすい、食欲がないなどの不調をやわらげたいときにもいいでしょう。

