「聞こえないから無理」を突破していくために必要なこととは?
――そうした当事者が自分の権利を遠慮してしまう環境を変えていくためには、教育の役割も大きいのでしょうか。
根本:現在、「インクルーシブ教育(※)」が進んでいるカナダに留学している学生がいるのですが、大学の中で耳が聞こえないのは彼一人らしいんです。
でも、周りの学生たちは自然と筆談したり、彼が授業に取り残されていそうだったらメモを渡してくれたりするそうです。日本だったら、当事者が自ら「何を話しているのか筆談で教えてくれませんか?」とお願いをしなければいけない場合が多いですよね。
カナダではその必要がない。それは、違いのある人が身近にいるのは当たり前という経験を幼い頃から積み重ねてきたからだと思います。だから、周りの学生たちも特別なことではなく、ごく自然な行動として対応できる。彼自身も、こうした環境を日本に広めたいと話していました。
- ※ 「インクルーシブ教育」とは、障害のある子もない子も同じ場で学び、個々に必要な配慮を受けながら学ぶ権利を保障する教育の仕組みのこと。障害を理由に通常の教育から排除されず、身近な地域で学べることを目指す考え方
――2026年2月には「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の記念式典が開催されるそうですね。
根本:2026年2月15日に日本財団ビルで記念式典を行います。式典では、留学事業の振り返りや、これまでに支援した奨学生一人ひとりの留学での学びをまとめたポスター発表、交流、留学に興味がある方々が留学について学べるような企画も考えています。
また、記念誌の発行も予定しており、奨学生が、さまざまなテーマで座談会を行い、それらをまとめて掲載して発行する予定です。
秋山:これまでの歩みを発表することで、日本の環境も少しずつ変わってきていることを示したいですね。そして、留学したいと思ってくれる子どもたちが増えてくれたらいいなと思います。

――留学はもちろんですし、国内の進学状況も改善されていくことを願います。そのためにも、私たち一人一人にできることはありますか。
秋山:私が高校生の頃、同級生のお母さんがとても聡明な方で、「耳が聞こえなくたって留学する人がいるんだよ」と教えてくれたことがあったんです。
その時に見せてくれたのが、実際に留学している聴覚障害者の新聞記事でした。それを読んで、衝撃を受けました。それまで、「あなたは聞こえないんだから無理」と言われることばかりだったので、世界が開けていくようでした。
だから、もしも身近に聴覚障害のある子どもがいたとしたら、その子にさまざまな可能性があることを教えてあげてほしいです。直接伝えることができなかったとしても、そういう情報を周囲の人にシェアしていくだけでもいいと思います。

根本:同時に、未知の世界にもどんどんアクセスしてもらいたいです。例えば、11月に日本でデフリンピックが開催され、東京の街ではデフリンピック関連のポスターが至る所に掲示されていました。「デフリンピックってなんだろう?」と思うだけで終わらせて、素通りしてしまうのはもったいない。
少しでも気になったら調べてみることで、世界の見え方が変わるのではないでしょうか。どんなことでもスマホで調べられる時代になったのだから、聴覚障害の世界についても関心を持ってもらいたいですね。

聴覚障害者の教育環境を変えていくために、私たち一人一人にできること
聴覚障害者の教育環境を変えていくために、社会全体や周囲の人たちに何ができるのかについて、秋山さん、根本さんに3つのアドバイスをいただきました。