プロが解説|奥深いおもとの魅力!

葉芸の美
おもとの世界で用いられる「葉芸」とは、葉に現れるあらゆる表情を“芸”として鑑賞する独自の美意識を指します。
斑の入り方や色の変化はもちろん、立ち姿、反り、ねじれといった葉姿、葉の厚みや凹凸、光沢、縁の丸みなど、葉が見せる総合的な表現を評価する点に特徴があります。


ポトスやモンステラなど、突然変異による「斑入り観葉植物」を珍奇性で楽しむ一般的な観葉植物文化とは異なり、葉芸は江戸時代から続く鑑賞基準に基づく文化的概念です。
品種ごとの“品格”や、個体が生涯を通して見せる“深み”まで読み取ることで、その価値が定まっていきます。
つまり、葉のディテールを味わい尽くす「葉芸」こそ、おもと文化の“粋”といえるのです。
おもとは、葉そのものが芸術作品のように変化を見せる植物であり、その奥ゆきこそが、悠久の時を超えて人々を魅了してきた理由でもあります。
なかでも、羅紗系(らしゃけい)と呼ばれる小型で厚葉の品種には、その醍醐味が凝縮されています。
苗の頃は平滑で薄い葉が、育つにつれて厚みを増し、葉脈がひだのように隆起してくる。
この変化をおもと用語で「龍」と呼び、重厚感を生む重要な葉芸とされています。

平面的だったものが立体的な存在へと変貌していく。
そのプロセスに羅紗系ならではの面白さがあり、おもとのアイコニックな美といえるでしょう。
錦鉢(にしきばち)で鑑賞する楽しみ

おもとの文化を語るうえで欠かせないのが、専用の鉢である「錦鉢(にしきばち)」の存在。
錦鉢とは、釉薬の色合いや文様、胴の張り、腰の角度など、鉢そのものに美意識が込められた鑑賞用の「器」のことを指します。
単なる植木鉢ではなく、植物と器の双方を“作品”として、そのマッチングを楽しむために発達した、おもとならではの文化です。

おもとには、生け花にも通じる精神があり、特に江戸期には「おもとは座敷で鑑賞する」という一種の作法のようなものが存在しました。
器と植物が調和してひとつの“景色”をつくり出すという、格調ある美意識が受け継がれてきたのです。
そこには「植物を飾る」のではなく、「植物を仕立てて鑑賞する」という、日本的な美の感性が息づいています。

写真提供:
錦鉢の一般的な価格は6千円から1万円ほどですが、中には数十万に及ぶ骨董級の高級品もあります。
そのため、普段から使うというよりは、展示会や特別な場面においてのみ錦鉢へ植え替える方が多いのが実情で、日常の管理では、数百円のプラスチック製の万年青鉢や、1,500円程度の焼き物の万年青鉢を使う方がほとんどです。
いわば、普段着と特別な場面の装いを使い分けるような感覚。
錦鉢とは、おもとに特別な表情を与えるための“晴れ着”のような存在なのです。

通常の管理は上の写真のような大量生産された安価な万年青鉢で行っている。
秋冬の観葉植物としての魅力
おもとにとって秋から冬は、一年の中でもっとも葉姿が充実する季節です。
春から秋までの成長期を終え、株全体が“仕上がった状態”になるため、葉の張りや艶、葉芸の輪郭がもっとも美しく際立ちます。
耐寒性抜群のおもとは、緑が寂しくなりがちな季節に、変わらずに凛とした葉姿を見せてくれる、それが古くからおもとが愛されてきた大きな理由のひとつです。

冬の見どころ「実」
さらに冬のお楽しみが、おもとの赤い実です。
おもとが秋冬に魅せる表情は、とにかくドラマティック!
緑の葉に黄色味のある斑が入り、そこにビビッドな赤い実が乗る。
この色彩のコントラストが本当に綺麗なんです。

ただし、この赤い実はどのおもとにも付くわけではありません。
実を楽しめるのは中型以上の品種で、しかも5年ほど安定して栽培してからようやく見ることができるようになります。
ここでいう“安定”とは、購入した株が自宅の環境に馴染み、その環境下でのリズムをつかむこと。
ちなみに、小型品種には実がつかないため、実を楽しみたいのであれば、中型以上のおもとを選ぶのがポイントです。
哀しきおもとの花
異文化交流のツールとしてのおもと

おもとが海外で人気を集めている背景には、いわゆるジャポニズム、日本文化への関心の高まりがあります。
盆栽をはじめ、日本独特の美意識が込められたものは、海外の方にとってはどこかエキゾチックに映り、その延長線上でおもとにも興味が向いているのだと感じます。
また、洋の東西を問わず、園芸家というものは、未知の植物に心を動かされる性があるもので、そういった意味でも、東洋の小国で独自に発展してきたおもと文化は、彼らの探究心を刺激するに十分な存在なのでしょう。

そして現在の海外人気を支えている大きな原動力が、豊明園(愛知県)の水野さんや、春光園(茨城県)の酒井さん、田哲園(長野県)の田中さんをはじめとした、気鋭に満ちた若い園芸家たちの活躍。
彼らはソーシャルメディアでの発信はもちろん、欧米諸国や台湾、中国などへ販路を広げ、積極的におもとを紹介しています。
私たち日本人がフィカスやモンステラを空間に取り入れて非日常的な雰囲気をつくるように、海外の方にとってのおもとは、室内にオリエンタルな空気をもたらす存在で、なおかつ、BONSAI(盆栽)ほど一般化していないため、新しいムーブメントをいち早く取り入れたい感度の高い層に刺さりやすい。
そしてそのニーズに、Eコマースに強い若い園芸家たちがしっかり応えているわけです。
こういった背景もあることから、日本おもと協会では近い将来、”おもと世界大会”の開催を目指したいと考えています。
ちなみに、数あるおもとの種類の中でも、海外では特に「獅子葉」という葉芸の品種が人気です。
まるで指でねじったような独特のカールが自然に出る観葉植物は海外ではほとんど見られず、強く注目されています。

プロがおしえる|おもとを楽しむ3つの方法
①ひたすら伝統芸によりそう

おもとは、植物そのものを鑑賞するだけでなく、「育てる・飾る」という行為を体系的に楽しむために、古くから多様な道具が受け継がれてきました。
錦鉢をはじめ、伝統工芸品の銅製水差しや、おもと運搬用に用いている煤竹製の籠、さらには刀鍛冶が打った地下茎カット用の小刀など、時にこれらの道具は、代々伝わる家宝のように扱われ、ふとした縁で入手の機会が巡ってくることもあります。
こうしたアンティークアイテムを蒐集し、かつての栽培家たちがどのようにおもとを楽しんできたかを追体験する。
こうして過ごす時間は、自分の趣味の奥ゆきを静かに感じさせてくれます。

何かを徹底的に極めたくなるタイプの人にとって、おもとはその欲求に応えてくれる、まさに最良の素材だと思います。
②自由に楽しむ
「おもとは、もっと自由に楽しめるものです。」と近藤さんはいいます。
おもとを、おしゃれな観葉植物として捉えたとき、おもとは伝統から解き放たれ、現代の暮らしをおしゃれに彩る“インテリアグリーン”としての顔も見せてくれます。
たとえば、ビカクシダのように苔玉仕立てにして吊るしたり(下写真)、壁掛けにしたりするアレンジも十分可能です。
栽培に水苔を使う点など、ビカクシダやランと共通する部分も多く、おもとは意外なほど柔軟に適応します。

写真提供: 田中悠介
また、おもとは地植えにも適しているため、他の山野草と寄せ植えにすれば、玄関アプローチなどのエクステリアにも自然な表情を添えることができます。
さらに、錦鉢そのものをモダンに楽しむこともできます。

春光園は江戸時代から続くおもとの絵付け文化を現代アートと結び合わせ、時代を反映した現代の万年青鉢を製作するプロジェクト”ROHDEART”を始動させ、上の写真のような、固定概念にとらわれない斬新な万年青鉢を制作しています。

こうした鉢の力を借りることで、おもとの表現はより自由に、そして大胆に広がります。
そして、おもとが和にも洋にも合わせられる、とても万能な植物であることが実感できるはずです。
インテリアを彩る現代的アレンジ例

前回アロイド系観葉植物の記事で見事なインテリア技を披露してくれた、さんも、じつはおもとファン。
錦鉢のうえでは神々しいおもとの人気品種「舞子獅子」も、みなりんさんの手にかかると、ビビッドな赤い砲弾形の鉢と合わせることで、ガラッと変わったポップな印象に。

都内筆者宅。7年前に自由が丘の雑貨店で購入したガラス鉢に、葉の縁が波打つような葉芸が楽しい「帽子虎」を植え、ワイフ手製のハンギングロープでカーテンレールに吊るしてみました。
寝転んで眺めると、まるで空想世界の鳥が羽を広げているようなファンタジックな雰囲気を感じます。
③交配の過程を楽しむ

おもとの世界には、交配によって新しいハイブリッド品種を生み出す、いわば“創造の楽しみ”もあります。
全国では毎年数万粒ものタネが播かれ、多くの交配からさまざまな個性豊かな苗が育ちます。
しかしその中から正式に新品種として日本おもと協会に登録されるのはごくわずかの狭き門。
でも、自分の手で交配し、発芽した苗からお気に入りを選ぶ過程そのものが、十分にワクワクする体験であり、そのチャレンジマインド自体が交配の醍醐味なのです。
おもとが江戸時代から途切れることなく栽培されてきた背景には、常に新たな品種が作出されてきた歴史があります。
交配を行うには、良質な“実親(みおや)”と呼ばれる交配向きの品種、そしてある程度の栽培スペースが必要ですが、現在は選抜された血統のよい実親も手に入りやすくなりました。
採粉用と受粉用に、血統のよい株を10鉢ほど揃えれば、交配自体は難しくありません。
やり方は、豊明園水野さんのYouTubeでの実演を参考にしてみてください。
