おもと図鑑|葉の形で見る美しい品種たち
おもとには正確な系統立てがあります。大きく分けると、小葉(羅紗)系、中葉(薄葉)系、大葉系の3つに分類されます。
しかし、系統立てて紹介するとちょっと複雑で、初心者には敷居が高く感じられる部分もあるため、ここでは筆者の視点で単純に「葉の見た目別」に、美しいおもとたちを紹介します。
※掲載写真の株はすべて、名人といわれる方が作られたものです。
葉がクルっとカールした、インパクト大のタイプ
葉が自然にカールした葉芸「獅子葉」があるタイプは、「獅子系(ししけい)」と呼ばれ、最も人気のタイプ。
その巻き方や変化を楽しむことを”獅子芸(ししげい)”と呼びます。
時にダイナミックに、時に雅やかに見える獅子芸を存分に楽しめる獅子系は、インパクトのあるおもとを楽しみたい方におすすめ。
舞子獅子(まいこじし)

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縞獅子(しまじし)

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コンパクトながらも確かな葉芸を楽しめるタイプ
おもとの専門用語では葉の長さが3〜15cmの小型品種系を「小葉種」とよびます。
コンパクトながらも存在感のある葉芸が魅力です。
力和(りきわ)

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瑞泉(ずいせん)

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珠光(しゅこう)

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中ぐらいの大きさで、葉芸の存在感抜群のタイプ
おもとの専門用語では、葉の長さが15〜25cmくらいの中型品種は「中葉種」と呼ばれます。
葉芸をよりダイナミックに楽しむことができ、結実すれば冬に実を楽しむことができます。
千代田の松(ちよだのまつ)

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福の光(ふくのひかり)

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大きな葉で圧倒的な葉芸を楽しめるタイプ
おもとの専門用語では、葉の長さが25〜50cmの大型品種系は「大葉種」と呼ばれます。
葉が大きいので、その分、葉芸も圧巻! 「引越しおもと」として贈り物でも人気です。
外輪山(がいりんざん)

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秋津島(あきつしま)

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シャープな葉で静かな気品を感じさせるタイプ
大きいながらもほっそりと巻きながらカーブを描く葉は、おもと用語で「樋葉(といば)」と呼ばれ、幅広の葉にはない静かな気品を感じさせます。
天錦章(てんきんしょう)

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青海波(せいがいは)

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初心者でも楽しめる、おもとの育て方(専門家アドバイス)
置き場所と環境

おもとは古来より日本の関東以南の地域で自生してきた植物なので、よほどの豪雪地帯でないかぎり、寒さにも強いです。このため、屋外管理が理想的です。
マイナス5℃くらいまでの耐寒性はありますが、安全のため最低気温が0℃以下になったら屋内に取り込むようにしましょう。
基本的に日光は好きですが、昨今の直射日光だと焼け枯れのおそれもあるため、4〜10月の期間は40%程度の遮光ネットを用いてください。
晩秋から晩春までは積極的に日光に当てたいところですが、この時期も20%程度の遮光があると安全です。
また、強風で葉同士が擦れて、おもと最大の魅力である葉に傷がついてしまう恐れがあるため、風除けになるようなものがあるとなおよいです。
集合住宅のベランダなどで栽培する場合は、小さな植物棚を購入し(または作って)、前述のように季節に合わせた遮光ネットを周囲に取り付けてあげれば、遮光と防風の両方に効果があります。
注意したいのはエアコンの室外機から離れた場所で栽培すること。

高層マンションなど、屋外環境が難しい場合は、植物育成LEDライトを用いれば完全室内管理も可能です。
ただし、サーキュレーターを用いるなどして、自然界同様におもとの周囲の空気を循環させてあげることが必須となります。
おもとは、株元付近に水苔を使用するので、いかんせん蒸れがち。
蒸れが続くと根は痛み、最悪の場合根腐れを起こします。
それを避ける意味でも、用土は、湿る
乾く
湿る
乾く、というサイクルをちゃんと作ってあげることが重要です。
そういった意味で、サーキュレーターが果たす役割は大きいのです。
用土

用土は、鉢内に水分が滞留しないよう、水はけのよい川砂利、軽石、焼き土などを主体に用います。
初心者には、これらが最適な比率で配合された「おもと(万年青)用土」が市販されているため、それを利用するのも安心です。
市販の「山野草の土」や「ランの土」も代用できます。
おもとの栽培では、用土を入れた鉢の表面に薄く水苔(上苔)を敷くのが一般的です。
水苔を敷くことで、表土の急激な乾燥を防ぎ、用土の粒が水やりのたびに流出するのを抑え、苔や藻の発生も予防できます。
また、鉢全体の景観を整える役割もあり、錦鉢では特に欠かせない仕上げです。

敷く量はごく薄く、5〜8mm 程度の“薄敷き”が目安。
ギュッと押さえ込まず、ふんわりと、おもとの根元を中心に巻くように広げて表土が軽く隠れる程度に整えます。
厚く盛りすぎると通気が悪くなるため注意しましょう。
水苔の代わりにヤシガラでも代用可

ちなみに近藤さんの栽培しているおもとの写真では、全ての株が用土表面に水苔ではなく、上の写真のようなヤシガラチップを敷いています。
ヤシガラは通気性が高く、水苔よりも管理しやすいため、育成段階の日常管理で用いる生産者もいます。
またコスパもよい素材なので、このような資材を使う方法も問題ありません。
水やりと施肥
水やり(
水苔に注意)


鉢の縁付近に竹串を深く挿し、30秒ほど待って抜き取ります。
引き抜いた串に湿り気や、土がしっかりと付いてくるようなら、まだ水は必要ありません。

また、夏と冬など、おもとの成長が鈍る時期は、表面が乾いたら霧吹きで水苔を軽く湿らせる程度にとどめましょう。
特に夏は蒸れに要注意です。
施肥(
与えすぎは厳禁)

肥料は、春と秋のお彼岸過ぎを目安に、盆栽用の固形肥料を置くのがおすすめです。
または、ハイポネックスなどの液体肥料を3,000倍に薄めて与えてもOK。
この場合、500mlの水に対して原液を約1滴弱
で十分です。
液肥は吸収が早いため、薄めすぎるくらいが安全。
濃すぎると根を傷め、組織が軟弱化し、それによって根腐れをひき起こす恐れがあります。
100円ショップなどで販売しているシリンジ(注射器)を使用すると、適量を測ることができます。
液肥を与える頻度は成長期に週1で水やりを行う際に、2週間おきが目安です。
なお後述しますが、植え替え時にマグアンプを使用した場合は、固形肥料・液肥ともに施肥は控えましょう。
鉢選びのコツ

前述したように、自慢のおもとを品評会などに出品する愛好家の方々は、ここぞという場面で錦鉢を用います。
しかし錦鉢の普段使いが決してNGというわけではありません。
錦鉢は本来、おもとの栽培に適した性質を備えているため、破損にさえ注意すれば、常に錦鉢でディスプレイするのもよい選択です。

錦鉢以外では、上の写真のような、錦鉢の絵柄を省いた普及型の万年青鉢「黒楽鉢(こくらくばち)」が最も調和するため選ばれますが、ラン鉢や一般的なテラコッタ(素焼き鉢)などでも問題なく栽培できます。
ポイント
植え替え

植え替えは1年に1回、春と秋の彼岸過ぎに行うのが最適です。
株を鉢からそっと抜き、芋(主根が膨らんだ部分)を優しく洗って汚れを落とします。
その際、傷んだ根を切り詰めることで、新しい根の発根が促され、株の活力が高まります。
下の映像で実際にそれらの作業が行われているので参考にしてください。
ちなみに、通常の栽培では植え替え時に元肥を混ぜ込む必要はありません。
ただし交配のため積極的に開花を促したい場合や、中型以上の株で実付き(結実)をよくしたい場合は、用土にマグアンプをひとつまみ混ぜ込むと効果的です。
年間管理のポイント

おもと栽培では、成長期と休眠期のメリハリをつけることが何より大切です。
春と秋の成長期には、しっかりと水と肥料を与えて成長を促します。
そして、冬の寒さを必ず体感させてあげましょう。
季節による寒暖のメリハリが、おもとがおもとらしく成長するうえでの重要な鍵となります。
気を付けるべき病害虫
おもとは基本的に強い植物ですが、春と秋に稀にスリップス(アザミウマ)が付く場合があります。
スリップスは、特に春に発生した場合は新芽の養分を吸い、葉に深刻なダメージを与えます。
また、カイガラムシや赤星病にも要注意。
これらの病害虫に対する予防的措置として、春先に殺虫殺菌剤『ベニカXネクストスプレー』を葉に散布してあげるとよいでしょう。
重要なのは、発生する前の対策です。

近藤さんからのアドバイス

おもと栽培を上達させるための近道は、よい相談相手を持つこと。
少し大げさに聞こえるかもしれませんが、おもとの世界にも「おもと道」という言葉があります。
この趣味は、最初に誰に出会い、誰に教わるかでその後の上達や楽しみ方が大きく変わるのです。
僕自身も、高校生の頃に近所の名作者と出会ったことが、おもとを深く愛するきっかけになりました。
おもとは、全国に経験豊富な愛好家や専門家が数多くいるため、日本おもと協会のを通じて、ぜひ気軽に自分に合った仲間を見つけてみてください。
一緒に切磋琢磨できる仲間がいるかもしれませんし、もしかしたら、あなたのおもと道に影響を与える「師」に出会えるかもしれません。
人との縁(えにし)こそ、この趣味の最大の醍醐味です!
