このときの対戦相手と巨人の先発投手を見てみると、6月4日のロッテ戦(先発・井上温大)、10日のソフトバンク戦(先発・井上)、13日のオリックス戦(先発・赤星優志)、15日のオリックス戦(先発・戸郷翔征)、17日の日本ハム戦(先発・井上)、19日の日本ハム戦(先発・山﨑伊織)、24日のロッテ戦(先発・西舘勇陽)だ。7試合通じての総失点は、実に38を数えた。
一方で、岸田が起用された交流戦は、5勝3敗1分。失点が12とそれなりの結果を残した。これではチーム内で「甲斐よりも岸田を起用したほうがいい」という声が強くなったとしても致し方ない。
※本記事は、江本孟紀著『長嶋亡きあとの巨人軍』より適宜抜粋したものです。

◆すべて悪い方向に結果が出てしまった
甲斐を交流戦で起用したのは、「パ・リーグを知り尽くしている」と評価したうえでのことだったのかもしれないが、反対の見方をすれば相手だって甲斐のことを熟知している。それだけに、甲斐のリードに導かれる巨人の投手が、パ・リーグの各チームを抑えられるとは限らない。残念ながらすべて悪い方向に結果が出てしまった。巨人の交流戦の成績は、6勝11敗1分。全体で11位と低迷したが、もしも甲斐が出場した交流戦の7試合を4勝3敗の成績でまとめていれば、10勝7敗1分で、順位は4位となっていた。勝負に「たら、れば」がよくないのは理解しつつも、この点は非常に惜しまれる。
◆巨人とソフトバンクの投手力には大きな差がある
なぜ甲斐は交流戦で結果が残せなかったのか。それは巨人とソフトバンクでは、投手力に大きな差があるからだと、私は見ている。
2019年と2020年の日本シリーズを思い出してほしい。巨人はソフトバンクに8連敗を喫した。ソフトバンクの投手陣に手も足も出ず、反対に巨人の投手陣はとことんソフトバンクの打者に打たれ続けた。
両者の差が明確になったのが「力のあるボールを投げる投手陣」と、「鋭いスイングをする打者」の存在だ。ソフトバンクが先制すれば、あとは先発、中継ぎ、抑えとそれぞれの役割を担う投手たちが自分の仕事をすればいい。実にシンプルな話のように聞こえるかもしれないが、実際それで巨人の打者は面白いように打ち取られ続けた。
あれから5年経つが、選手の顔ぶれは違えども、巨人にいる打者の打撃の質はそれほど大きく変わっていないように思える。
一方の投手陣も、打者を制圧するようなストレートを投げる投手は見当たらず、勝負どころになると変化球でかわしにかかるタイプが多い。対戦相手の好打者を迎えると、「打たれたくない」「無難に行こう」と思うがあまり、ボール先行でカウントを悪くする。その結果、四球を連発してしまうという悪循環に陥っている。はっきり言って、巨人の投手陣の勝負に対するスピリットは、5年前と同様と見るべきだろう。
そこへ甲斐が巨人の捕手陣に割って入り込んで来た。甲斐自身も、巨人で「どうにかして結果を残してやろう」と並々ならぬ闘志を燃やしていたかと思う。だが、内角に要求したとき、攻めきれず逆球となって痛打を食らうシーンが多く見られた。それだけに、甲斐が巨人の投手陣に対してもどかしさを感じたことも、一度や二度だけではなかったはずだ。

