◆25年シーズンの結果、「甲斐は巨人に必要なかった」
甲斐を獲得した2025年シーズンは、「失敗だった」と見られても仕方がない結果に終わってしまった。たしかに入団してしばらくの間は、甲斐は攻守の要として巨人の投手陣を盛り上げてきた。
打撃に関しても、4月末の段階で打率は3割1分6厘。彼のことをよく知るソフトバンクの元監督である工藤公康をして、「こんなに打つ選手でしたっけ?」と言わしめるほど好調さが光っていた。
だが、これはセ・リーグの5球団が「甲斐のことをよく知らなかった」だけだった。彼の分析をし終えた5月以降には、途端にそれまでの打撃が鳴りを潜めた。「開幕当初の好調ぶりはなんだったのか」と思えるほどの急降下だ。
最終的には打率2割6分、本塁打4、打点20という数字に収まったものの、ライバルとなる阪神戦では2割2分9厘、広島戦では1割6分2厘、中日戦では2割1分6厘と、それぞれ芳しくない成績だ。
そのうえ、スタメンマスクを被って出場した64試合の勝敗は、30勝33敗1分と3つも負け越してしまった。ソフトバンクの正捕手として3度のリーグ優勝、4度の日本一を果たした経験値を活かすことができずに終わった。
一方のソフトバンクは、海野隆司、嶺井博希、谷川原健太、渡邉陸らを競わせた。投手によって組み合わせを変えての起用である。甲斐がいたときには、控え捕手の扱いだった海野は、使われ続けることで覚醒し、なくてはならない存在にまで成長した。
これまでの「甲斐一択」から、複数捕手制に変えていく。これにより、ソフトバンクのチーム力が昨年と比べてさほど落ちることなく勝ち進んでいったことは、ある意味皮肉な結末といえる。
<談/江本孟紀>
【江本孟紀】
1947年高知県生まれ。高知商業高校、法政大学、熊谷組(社会人野球)を経て、71年東映フライヤーズ(現・北海道日本ハムファイターズ)入団。その年、南海ホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)移籍、76年阪神タイガースに移籍し、81年現役引退。プロ通算成績は113勝126敗19セーブ。防御率3.52、開幕投手6回、オールスター選出5回、ボーク日本記録。92年参議院議員初当選。2001年1月参議院初代内閣委員長就任。2期12年務め、04年参議院議員離職。現在はサンケイスポーツ、フジテレビ、ニッポン放送を中心にプロ野球解説者として活動。2017年秋の叙勲で旭日中綬章受章。アメリカ独立リーグ初の日本人チーム・サムライベアーズ副コミッショナー・総監督、クラブチーム・京都ファイアーバーズを立ち上げ総監督、タイ王国ナショナルベースボールチーム総監督として北京五輪アジア予選出場など球界の底辺拡大・発展に努めてきた。ベストセラーとなった『プロ野球を10倍楽しく見る方法』(ベストセラーズ)、『阪神タイガースぶっちゃけ話』(清談社Publico)をはじめ著書は80冊を超える。

