◆相手が怒鳴っていた音声が消えていた?
取り調べが行われる前に当事者双方のドラレコの映像を確認した。相手は、クラクションを鳴らされたあとに、「なんだ!この野郎!!」と車内で怒鳴り、急ハンドルを切って右折。そして「止まれコラ!」「降りてこいコラ!」と怒鳴りながら近づいてきた。停車後、「オラァ!動くんじゃねぇ!降りろ、この野郎!!」と威嚇していた。とはいえ、手を出したのは山中さんだ。その日、父親が面会に来たので、「やっぱり相手はヤバい人だった」と話すと、「相手の人は命が危ないかもしれないんだ。悪く言うんじゃない」と諭された。
留置場で年を越すことになり、刑事の取り調べを受けた。このとき、再度相手のドラレコの映像を見たが、なぜか相手が怒鳴っていた音声が消えていたという。
◆「懲役3年、執行猶予5年」という判決に
検察庁に移送されてからも取り調べは続く。検察官は、「相手は話し合いをしようとしていたのに、山中さんが一方的にスタスタ歩いて殴りに行った!」と叱責した。保釈され、担当弁護士のところでもう一度ドラレコの映像を見た。やはり相手の怒鳴り声は消されていた。当然ながら、一方的に暴行したかのように見えてしまう。この点については今も納得していない。
地裁、高裁、最高裁と上告した結果、「懲役3年、執行猶予5年」という判決が下された。執行猶予がつくのは懲役3年まで。相手がもっと重症だったり亡くなったり、事態が深刻だったら、懲役刑になった可能性がある。
山中さんは、ドラレコの音声の件と相手の怪我の原因について真実を知りたいと考え、再審請求をしているそうだ。
<TEXT/渡辺陽>
【渡辺陽】
大阪府出身。医療ジャーナリスト、ライター。人物取材を中心に病気と共に生きる人のライフスタイルや社会問題について書いています。

