15歳のときに家出した母との同居、わかり合えるまで
こうして始まった母との暮らしは、決して順調ではなかったと言います。
「母はもともと子どもより自分が大事な人でした。実は私が15歳のとき、父との不仲が原因で母は家を出て、以来ほとんど一緒に暮らしたことがなかったんです。
山梨に引っ越して1週間目、荷物の整理に奮闘していると、『ミリちゃーん』と呼ぶ母の声がして、寝室、トイレ、お風呂と家じゅうを探したけれど、どこにも姿がない。慌てて外に出ると、母は玄関の段差から落ちて手を骨折していました。
長年一人で自由に生きてきた母は、病気で足元がおぼつかなくなっても、勝手に出掛けてしまい倒れていることがたびたびあり、私は『何かするときはちゃんと声を掛けてね。一人で生きているんじゃないのよ』と何度も伝えました。最初は何も言わなかった母も、次第に『ありがとう』と言ってくれるようになって。
どんどん歩けなくなることへの恐怖もあったと思いますが、家族やヘルパーさんに頼ってもいい、自分は一人じゃないとわかって安心したのか、今の母はとても幸せそうな顔をしています」

パーキンソン病が進行して車いす生活になった母は2年前、「そろそろ施設に入りたい」と自ら宣言。現在は山梨の家に近い特別養護老人ホームで暮らしています。
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「移住後は想定外な出来事の連続だった」と振り返る岡田さん。移住した冬に始まったコロナ禍を乗り越え、新たに描いた目標。一方で思いがけず、家族が増えることに…。【後編】では、岡田さんの、60代、これからの暮らしへの思いをお聞きします。
取材・文=五十嵐香奈(編集部) 撮影=天野伶
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※この記事は2023年9月号の取材を再編集しています。

