会場となったのは、現代の美味を追求し、文化発信の場でもある八雲茶寮(東京都目黒区)。

「美味求真」の筆者、木下謙次郎は貴族院議員などを歴任した政治家でありながら、単なる食通を超え、文化、歴史、科学や倫理、哲学にまで幅を広げて、人間の食の本質を研究。そこには食と生命を慈しむ姿勢が見える。
そして、長年の研究をまとめた『美味求真』を1925年に刊行。わずか3か月で五十刷に達したという当時のベストセラーとなった。序文を生物学者の北里柴三郎が書いていることからも、木下の食に対する研究の幅広さがわかる。

この『美味求真』を100年後に復刊させたのが、河田容英さん。大学生向けの海外留学支援企業「ログワークス」の社長だ。もともと料理を作るのが好きで食に関心のあった河田さんが出会ったのが、ビジネスとは関係のない「美味求真」。文語で書かれており、しかも漢文混じりで読みにくかったため、自身が理解するために、2016年からウェブサイトで「美味求真」の現代語訳を始めた。その後、注釈を付すという方法で食にまつわる文化、歴史、哲学に関する記事を発信し続けているのだという。

クロストークでは河田さんと、福岡さんのふたりが、現代社会で「食べること」や「生きること」、そして、現代語訳を出版する意味などについて語り合った。まずは福岡さんが書いた「食べることは生きること」(現代語版への序)の一部を朗読した。福岡さんは「食べるという行為はスマホやAIに代替できない実存的な行為」とし、ロゴス化(言語化)され得ないピュシス(自然)と話す。また、命のあり方やとらえ方などにも触れ、100年前の本をあらためて今の時代に読む意味などについて言及した。
トーク終了後は、実際の「食」の世界へ。八雲茶寮総料理長の梅原陣之輔さんが『美味求真』をもとに、現代的に再解釈した季節の食材を使った料理が登場。ここでその一部をご紹介。





木下が100年前に綴ったことは、現代にも「食べること」や「生きること」を問いかける。参加者は美食の数々を堪能しながら、それぞれに食に思いを馳せた。
text: 宮智 泉(マリ・クレールデジタル編集長)
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