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“ハッピーセット炎上”の裏にあった「ポケカ転売」の真相…なぜ“紙切れ”が5億円超に? 犯罪組織の「資金の隠し」にも好都合な“裏の価値”

“ハッピーセット炎上”の裏にあった「ポケカ転売」の真相…なぜ“紙切れ”が5億円超に? 犯罪組織の「資金の隠し」にも好都合な“裏の価値”

今年8月、マクドナルドのハッピーセットに付く限定ポケモンカードをめぐり、転売目的の大量購入やカードだけを抜き取って食品を廃棄する行為が相次ぎ、社会問題化した。

この事態を受けて、日本マクドナルド社は公式に謝罪を表明。「転売目的での購入や、食品の放置・廃棄を容認しない」と宣言し、「より厳格な販売個数制限を設ける場合がある」とも表明した。

しかし、そもそも、なぜ「紙切れ」に過ぎないはずのポケモンカードが高額転売の対象になっているのか。

本記事では、フリーライター奥窪優木氏の著書『転売ヤー 闇の経済学』(新潮新書、2024年)から、金属探知機を使った「レアカード採掘」や、闇バイト、マネーロンダリングにまで及ぶ、ポケカ転売ビジネスの裏側を書いた箇所を抜粋して紹介する。(本文:奥窪優木)

マスクと医療用手袋をつけて作業する男たち

パチンコ以外には暇つぶしの手段もなさそうな、ごくありふれた関東近郊の国道沿いに、その古びた木造2階建ての倉庫は立っていた。

2023年5月。そこを訪れた筆者は、ペンキで書かれた「○○玩具商店」の文字がかろうじて読めるステンレス製の引き戸を開ける。湿った古ダンスのような、かびた臭いが漂うなか、折りたたみ机に向かって2人の若い男性が並んで座っていた。

机にはビニールシートが敷かれ、そのうえにアニメテイストのイラストが描かれた紙箱が大量に積まれていた。ざっと数えても40箱以上はあるだろう。

男性たちはマスクで口を覆い、手に青い医療用手袋をはめ、箱の中からキラキラした小袋を取り出していく。官製はがきより一回り小さい小袋には箱と同様のイラストが施されている。

1200個ある小袋を全て出し終えると、小型のアイロンに似た装置で、その表面をなでるように動かしていく。すると、何袋かに1つの割合で、装置が「ピーッ」という音を立てて反応した。3度、4度となぞるうちに反応する場合もあるようで、1つの小袋に何度も装置を押し当て、箱ごとに、反応の有無で小袋を分けて机の上に積み上げていった。

紙切れが527万ドルに

彼らは、ポケモンカードの転売集団である。小袋は、カードが5枚入った「パック」だ。パック30個で、1箱(1ボックス)分となる。

ゲームソフトやアニメで知られる、ポケットモンスターをテーマにして1996年に誕生したポケモンカード。2人での対戦を基本に交互にカードを出すターン制で行われる「ポケモンカードゲーム」で使用するトレーディングカードである。

1、2か月ごとのペースで新シリーズが発売されるポケモンカードは、2024年8月までに世界で約2万種類、648億枚以上のカードが出荷されているといわれ、世界大会も開催されるほどになっている。

そしてゲーム以上に白熱を見せたのが、カードの転売市場というわけだ。

2021年には、世界に39枚しか存在しない「ポケモンイラストレーター」という希少カードが527万5000ドル(当時のレートで約5億8000万円)で購入されたことを筆頭に、出現率の低いレアカードは、数百万円や数千万円で取引されている。

最近発売されたシリーズでも定価は1パック180円だから、転売価格の高騰ぶりがわかる。

数百円で買える“紙切れ”が数千倍、数万倍の価値に化けることもあり、新作シリーズが発売されるたびにポケモンカードを扱う各地の量販店では純粋なファンと転売ヤーが行列を成し、警察沙汰になるようなトラブルも発生してきた。

ポケモンカードは、レアリティ(希少性)によって8段階(2022年12月1日以前は9段階)に区分されている。なお、正規販売されているポケモンカードは、購入して開封するまでなかにどんなカードが入っているかわからない。

シリーズにもよるが、最も希少性が高いUR(ウルトラレア)は、10ボックス(300パック=1500枚)に1枚程度、最も低いC(コモン)では1パック(5枚入り)に3枚程度という確率で封入されていることが、コレクターらの集合知によって知られている。

転売市場で高額で取引されているのは、おもに上位ランクUR、SAR(スペシャルアートレア)、SR(スーパーレア)の3つだ。基本的に1ボックス(30パック=150枚)につき、これらのランクのうちいずれかに属するカードが1枚封入されているといわれている。

しかし、レアリティが高いカードだからといって転売市場で高値がつくとは限らない。絵柄によって人気・不人気があり、市場価値が異なるからだ。最高ランクのURに区分されるカードよりも高値で取引されている、2段階低いSRランクのカードもある。

そして、それらのレアカードの価値は、毎日刻々と変化しているというから、まるで株式市場そのものだ。ネット上には、各種レアカードの取引相場を調べることができるサイトが複数存在する。

金属探知機でカードを「採掘」

「1ボックス(150枚)に6~7枚の封入率と言われているR(レア)とそれ以上のレアリティのカード(レアカード)には、アルミを使ったコーティングがされているので、金属探知機を使えば割り出すことができるんですよ」

倉庫の2階から降りてきた、転売集団のリーダー格であるオガサワラ氏(40代男性・仮名)が、そう話す。もともと個人でポケモンカードの転売ヤーをしていた彼が、廃業状態にあったこの玩具卸店の経営権を購入したのは2年前のこと。品薄が続くポケモンカードを、正規ルートで安定的に仕入れることが目的だった。

「ああ、レア抜きってヤツですよね」

そう合いの手を入れると、オガサワラ氏の目が光った。

「レア抜きは、詐欺師がやること。俺がやっているのはあくまでサーチ。採掘作業みたいなものです」

どうやら筆者は口を滑らせてしまったらしい。

彼によると、ボックスの中からレアカードが封入されたパックのみを選りすぐるという点はどちらも同じ。しかし違いは、その後だ。レアカードが入っていそうにない、いわば「カス」のパックをネットなどで素知らぬ顔で第三者に売りつけることを「レア抜き」と呼ぶという。

「カスのパックを集めて数を合わせてボックスに詰め、『未開封』として再流通させる手口もある。専門の業者に頼めば見分けがつかないほど巧妙にシュリンク(ビニール包装)を巻いてくれるし。完全な詐欺師ですよ」

しかし彼とてカスのカードに用はない。そこで、採掘済みであることを明言した上で、まとめて再販するという。

「メルカリなどで『サーチ済みにつきSR以上は出ません』と明言して出品しても、定価の半額程度なら需要はある。あと、手っ取り早く束で買ってくれるのはゲーセン業者ですね。クレーンゲームとかの景品にするんですよ」

メルカリに転売目的と見られる商品売買に関して質問状を送ったところ、

「出品物に関しましては、多様な価値観によるさまざまなご意見があるものと認識しております。メルカリは、個人間で簡単かつ安全に売買できるマーケットプレイスをコンセプトとしており、出品禁止物の該当性については2021年1月に定めた『マーケットプレイスの基本原則』及び本原則に則り定めている利用規約・ガイドに準じて判断を実施しております。

『マーケットプレイスの基本原則』は外部有識者によるアドバイザリーボードで定期的にレビューし、社会情勢の変化や、みなさまとの対話を踏まえて、見直しを行っております。今後もさまざまなステークホルダーとの対話・連携を強化し、お客さまに適切な情報を提供していくことで、誰もが安心安全に利用できるマーケットプレイスを目指してまいります」

との回答を得た。

重さからレアカードを特定

合計1200パック(6000枚)を2人がかりで仕分けし終えたのは、作業開始から1時間半後のことだった。若干のばらつきはあるが、金属探知機が反応したパックと、しなかったパックが1ボックスにつき、およそ半々という配分になった。

若い男は反応しなかった方のパックの山を乱雑に元の箱の中にまとめると、次の作業に入る。取り出したのはデジタルスケールだった。彼らは金属探知機が反応したパックを一袋ずつ乗せ、0・001グラム単位までその重さを記録していくのだ。

「金属探知機によるサーチは簡単ですが、わかることは“そのパックの中にレアカードが入っているか否か”だけ。これからの作業は、レアカードが入っていることがわかったパックを、さらにSR以上のカードが封入されているかどうか、可能性の高さごとにグループに分けていく」(オガサワラ氏)

オガサワラ氏によれば、R以上のランクのレアカードにはアルミコーティングが施されているぶん、非レアカードと比べて重くなる。さらに、ランクごとに重さも違うそうだ。逆に言えば、シリーズ内で同じランクのレアカードの重さは大体一緒。それぞれの実際の重量を彼らは把握しているのだという。

「つまり、パックの重さを測ることで、中のカードの組み合わせをおおむね推測することができるんです。仮にパックの中にレアカードが1枚だけ入っている場合は、その重さでどのランクのカードが入っているかはかなりの確率で判別できる。

我々が狙うのは、転売市場で取引対象になるSR(スーパーレア)以上のランクのカードのみ。この方法でSR以上が入っていると見込まれるパックが、Aグループ。もちろん、レアカードが2枚入っていて、そのうち1枚がSR以上ということもありえるので、一筋縄には行かないけど、SR以上のカードが含まれるパックに他にもレアカードが入っていることはまれ。

だから重すぎるパックは、SR未満が複数枚入っている可能性が高いので、Cグループ。このどちらでもないのがBグループ」(オガサワラ氏)

仰々しいようにも見えるマスクと医療用手袋をつけての作業は、汚れがついてパックの重さが変わることを防ぐためだったのだ。

金属探知機の工程を飛ばしてはじめから重量を測り、軽すぎるものに関しては「レアカード封入なし」に仕分けすればいいようにも思える。しかし、オガサワラ氏はこう話す。

「カードやパックのフィルムのわずかな裁断ムラで、レアカードが入っているのに重量が軽くなる場合もある。そうしたパックの取りこぼしを防ぐためにはまずは金属探知機を使うようにしている」

重量の計測によって、パックをさらに3つのグループに分けると、残る工程はあとひとつだ。

それは時間と手間がかかるものの、パック内のカードのランクだけではなく、具体的な種類までを判別することができる方法だという。

「特別な装置は使わないが、作業をする人のノウハウと経験にかかっている」

オガサワラ氏は、それ以上の具体的な方法については「企業秘密」として、口を閉ざした。

「Aグループから順番にサーチし、SR以上のランクのカードが出たら、そこでそのボックスのパックについては作業終了。まれにSR以上のカードが複数枚入っているボックスがあるけど、作業効率の面からその可能性については無視することにしている。

逆にSR以上のカードが入っている可能性が低いCグループまで全部サーチしてもSR以上が見つからなければ、第一弾のサーチで『レアカード封入なし』とみなしたパックを洗い直す。まれにレアカードが入っていても金属探知機が反応していない場合があるから。

ただ、やはりまれにSR以上の封入がないボックスもあるのである程度のところで諦めるようにしている」

こうして入手したレアカードは、主にメルカリで現金化しているという。

「これまで3000ボックス以上を開封してきたが、何十万という値がつくようなカードにはお目にかかったことはない。最高のものでもせいぜい7、8万円くらい。数か月から1年ほど寝かしてから売れば、価値が3~4倍になったカードもあったが、逆に無価値になるカードもある。

どのカードが値上がりするかは誰にもわからないので、我々はできるだけ早く売却している。ただ、1つのボックスからは、平均して6000円から7000円ほどの値がつくカードが出てくる。

1ボックスの仕入れ値は3000円前後で、サーチ済みのパックを売却すると2000円ほどは返ってくる。ということは、1ボックスにつき平均5000円は利益が出る計算になる」(オガサワラ氏)

ポケモンカード転売は、意外にも手堅い実入りがあるようだ。

マネーロンダリングにも利用される

一方で、前述のような数百万を超える価格で取引されるような超高額カードも、確かに存在している。そうした一部のポケモンカードの高額化の背景に「裏社会の需要」を指摘する声もある。

「振り込め詐欺をやってる連中は、蓄えたカネでせっせとポケモンカードを買い漁っているよ」

某指定暴力団の二次団体元幹部から、そんな話を聞いた。

「どう入手したか説明のできないカネは銀行に預けるわけにもいかず、タンス預金するしかなかった。しかし数千万単位になると、現金もなかなか邪魔になる。同業者や半グレからタタキ(強盗)に入られるリスクもあるし。でも100万円のポケモンカード数十枚に変えてしまえば、コンパクトに隠せるだろ」(元幹部)

さらに、ポケモンカードを利用したマネーロンダリングも横行しているようだ。

「たとえば犯罪収益で100万円の価値があるレアカードをコレクターなどから相対取引(売り手と買い手が直接価格などを決める取引のこと)で買う。そしてそれをしばらくして同額で転売する。

もともと100万円で買ったという事実を伏せたうえで、『偶然引き当てたレアカードの価値が上昇しそれを売却した』と見せかければ、合法的な資金とすることができる。実際には、さらに複雑な取引を繰り返すことで、当局による追跡は不可能になる」(同)

犯罪資金の海外への持ち出しも、ポケモンカードを媒介することで容易になるという。

「以前は、現金を美術品や骨董(こっとう)品、仮想通貨などに変えて国境を超える方法が取られていたが、最近はどれも国際的に対策されている。数千万円くらいまでの資金であれば、ポケモンカードに変えて現地で現金化するのが一番手っ取り早い」(同)

闇バイトとポケモンカード

事実、海外では、犯罪組織の拠点からポケモンカードが押収されるケースが頻発している。

2023年6月23日付けの英紙『デイリー・ミラー』によると、違法薬物の売人として逮捕された男女が住むイングランドのノッティンガム近郊の民家から、大量のポケモンカードが見つかった。その総額は1万ポンド(約183万円)にも達していると見られており、警察は犯罪収益によって取得された疑いがあるとして、それらを押収したという。

また、カナダのオンラインメディア「グローバルニュース」によると、同国アルバータ州のエドモントン警察は、2023年4月、2軒の家宅捜索で末端価格にして40万カナダドル以上の違法薬物と、総額3万4000カナダドル(約370万円)にものぼるポケモンカードをはじめとする6万枚近いトレーディングカードを発見したという。

日本でも、裏社会のポケモンカードへの関心を証明するような事件が起きている。

2022年8月、東京・秋葉原の店舗で、販売総額約1300万円相当のポケモンカード約650枚と現金約480万円が盗まれる事件が発生。これまでに指示役と実行犯あわせて4人の男が逮捕されている。

報道によると指示役の男は2022年8月4日午前3時半頃、実行役3人と共謀し、東京都千代田区のJR秋葉原駅近くのカードショップに侵入。

現金約480万円とポケモンカード約650枚(約1300万円相当)を盗んだ疑いだ。指示役の男はSNSで実行犯を募集しており、いわゆる闇バイト案件だったことも判明している。この指示役の男は区内の別店舗で約2660万円相当のポケモンカードなどが盗まれた事件にも関与したと見られている。

さらに2024年4月にも、埼玉県内の会社事務所からポケモンカード25枚を中心に、計約25万2000円(時価)を盗んだとして住吉会系の暴力団員の男ら2人が警視庁に逮捕されている。

カードを開発・販売している株式会社ポケモンは、2023年6月に新作カードが発売されるタイミングで「転売等の営利を目的とした商品購入を固くお断りしております」と呼びかけるなどしている。しかし、もはやポケモンカードは、ただの玩具の枠を超えて、有価証券あるいは貨幣に近い存在になってしまったのだ。

値下がりさえも商機に

2024年7月現在、これまで数千万円を超える価格で取引されていた超レアカードの値下がりが相次いで報告され、ポケモンカードバブル崩壊を指摘する声もある。しかし前出のオガサワラ氏は、そんな懸念を「どこ吹く風」とばかりにこう話す。

「超高額カードのなかにはここ1年で大幅に値下がりしたものもある。たしかに半値ほどになったものもあるが、われわれがサーチで狙う数千円〜数万円程度の中堅レアカードの相場は堅調。むしろ投機熱が和らいで相場が安定した今の方が、商売はしやすい」

一方で彼は、ポケモンカード以外の玩具の転売にも、新たに手を出しているようだった。

「最近は、ガンプラ(機動戦士ガンダムのプラモデル)やトミカ(タカラトミーが販売するミニカー)なんかも転売しています。月20万程度の儲けにしかならないからスモールビジネスですけどね」

謙遜するようなそぶりを見せながらも、自身のビジネスセンスを鼻にかけたような物言いに、筆者は「へぇ〜っ」と大げさに感心してみせた。すると、得意になったオガサワラ氏はこう続けた。

「転売市場で今熱い商材を見つける魔法の言葉があるんですよ。『転売ヤー死ね』ってX(旧Twitter)とかで検索すれば、転売ヤーが今何に群がっているかわかる。うちはいちおう玩具卸なので、転売ヤーの購入価格より安く仕入れられる。それを転売市場で売るだけで、いくらかの利鞘は取れます」

愛好家の嘆きから商機を感じ取るというオガサワラ氏。転売ヤーに目をつけられないためには、愚痴を言う事さえ控えたほうがよさそうだ。

■奥窪優木(おくくぼ ゆうき)

1980年、愛媛県松山市生まれ。フリーライター。上智大学経済学部卒業後に渡米。ニューヨーク市立大学を中退、現地邦字紙記者に。中国在住を経て帰国し、日本の裏社会事情や転売ヤー組織を取材。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』『ルポ 新型コロナ詐欺』など。

配信元: 弁護士JP

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