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「社長がブースに立たない日本企業は世界で負ける」ドイツ展示会で見た“即決商談”の衝撃

「社長がブースに立たない日本企業は世界で負ける」ドイツ展示会で見た“即決商談”の衝撃

グローバル化に次々と成功しているドイツの中小企業は、日本とは何が異なるのだろうか。その1つに商談への意識が挙げられる。日本では展示会を新製品の紹介の場とする認識が一般的だが、ドイツとはどのような点に意識の差があるのだろうか。本記事では、岩本晃一氏の著書『高く売れるものだけ作るドイツ人、いいものを安く売ってしまう日本人』(朝日新聞出版)より、世界進出を果たすドイツと内弁慶の日本の中小企業とを比較する。両者の間には明確な意識の差が存在した。

ドイツ商工会議所による中小企業への支援

ドイツの産業クラスターにおける企業への支援内容としては、企業活動の「前工程(=高い技術力をもった売れる製品の開発)」と「後工程(=世界に向けた販路開拓)」の2点が挙げられる。ここでは、「後工程」にあたる具体的な支援のあり方を紹介する。

ドイツで後工程を担っているのが、商工会議所と、地方政府の経済振興公社だ。まず、商工会議所の活動についてである。

ドイツには商工会議所法という法律があり、そこで事業内容が定められており、企業の強制加入も規定されている。在日ドイツ商工会議所のホームページによれば、2025年における会員は470社だ。

在日ドイツ商工会議所とあるとおり、ドイツの商工会議所は、ドイツ国外にも数多くの拠点をもっている。筆者が2015年に在日ドイツ商工会議所のマンフレッド・ホフマン特別代表(当時)に話を聞いた時点で、世界80か国に120か所の拠点があり、問い合わせまで含めると、年間に約1000件近い案件を扱っているということだった。

ホフマン氏によると、ドイツ国内には80程度の商工会議所があり、中小企業から海外に進出したいという相談を受けたときには、進出したい国を聞き、その国のドイツ商工会議所の連絡先を教えるのだという。後は、進出希望先の国の商工会議所が、海外進出支援を行うとのことだった。たとえば、日本への進出を希望する場合、次のようになる。
 

『ドイツ商工会議所が企業の日本進出を支援する流れ』

1.日本で代理店を探している企業に対しては、候補先企業のリストを送る。

2.日本で支店を作りたいという企業に対しては、日本での必要な手続きの情報を提供し、弁護士を紹介する。

3.日本市場の情報が欲しいという企業には、個々の分野の専門家を紹介する。

4.日本に輸出したいという企業には、在日ドイツ商工会議所がターゲットとなる日本企業を1社ずつ当たる。

5.日本に工場を作りたいという企業には、立地候補地や必要な手続き等に関する情報を提供する。


つまり、ドイツの在外商工会議所の手厚くきめ細かいサービスが、力の弱い中小企業であっても、海外進出を可能にし、「隠れたチャンピオン(※)」を生み出すことにつながっていると言える。
 

※隠れたチャンピオン(Hidden Champions)
ドイツのハーマン・サイモン(Hermann Simon)によって提唱された「経営学」上の用語である。比較的規模が小さい企業も多く、一般的な知名度は低いが、ある分野において非常に優れた実績・きわめて高い市場シェアをもつ会社のことを指す。


日本の商工会議所の人々は、よく「ドイツは強制加入だから羨ましい」と言うのだが、逆に言えば、強制的に参加費を払わされる会員企業の期待に応えようとドイツの商工会議所は必死で頑張っている、とも言える。中には、会員企業の期待に応えられない商工会議所もあるため、強制加入制度を批判する企業もあると聞いている。

なお、ドイツの商工会議所は、コンサルティング業務も行っているが、これは特定の企業の利益のために行うものであるため、企業負担で行う業務となっている。すなわち、公共的活動部分は税金で賄われ、個々の企業の利益につながる活動は企業が負担するということだった。

在日ドイツ商工会議所のホームページによると、過去10年間に、同所の支援で日本に進出した中小企業は約10社と推察される。

ドイツの産業クラスターが極めてうまくいった背景には、商工会議所による長い活動の積み重ねがあったと思われる。ドイツの産業クラスターは、特定地域の特定産業を対象にしているが、その活動内容は、ほぼ商工会議所の活動内容を真似るところからスタートしている。

日本の商工会議所も、ドイツ並みに中小企業のグローバル化を積極的に支援すれば、日本の多くの中小企業が海外進出を果たすことが可能だろう。そうすれば、多くの隠れたチャンピオンが日本にも生まれるはずである。

地方政府の“実働部隊”経済振興公社による活動 

続いて、地方政府の経済振興公社による活動である。

ドイツでは、州政府の下には必ず、そして、ほとんどの市政府の下にも、「経済振興公社(Business Development GmbH)」がある。活動内容は、まさに名称のとおり、ビジネスを開発することである。

地方政府が100%株式を保有する会社であり、地方政府経済部門の“実働部隊”である。筆者が受けた印象としては、日本における「事業団」の活動形態に近いと感じた。すなわち、州政府が100%の活動資金を提供し、与えられたミッションを果たすため事業を行う。

日本の地方自治体の下には、土地開発公社や住宅供給公社はあるが、経済振興公社はない。こういった組織形態の違いが、日本とドイツの地方政府がそれぞれ何を重視しているのかを端的に表していると言えよう。

経済振興公社が行う輸出振興支援業務は、外国の展示会への出展を支援することが主である。経済振興公社と商工会議所が行う中小企業のグローバル支援業務は、役割分担されているようだ。

すなわち、ドイツ商工会議所は、外国に在外商工会議所を設置し、外国での事業活動を直接支援している。一方、経済振興公社は、地元の中小企業を率いて、外国の展示会に出展させ、さらに目ぼしい外国企業をピックアップし、ドイツ企業と引き合わせている。

たとえば、ザクセン州の経済振興公社には、筆者が調査した2015年時点で、職員が約50人おり、1年間で14回、すなわち1か月に1回以上のペースで外国の展示会に出展しているということだった。日本でも、地方自治体や関連団体などが外国の展示会に出展することがあるが、せいぜい1年に1回であろう。出展のペースがまるで違うということである。

しかも、1社1展示会当たり5000ユーロの補助金を出しており、企業の自己負担は30〜50%程度となっていた。また、公社の職員が、実際に製品を購入してくれそうな企業を探し出し、ドイツ企業に紹介することもあるそうだ。

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