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デジタル技術導入で差が明確になった“日独のものづくり”…後れを取る日本、「第4の産業革命」を起こしたドイツ

デジタル技術導入で差が明確になった“日独のものづくり”…後れを取る日本、「第4の産業革命」を起こしたドイツ

関心は「作業の効率化」から「新しいビジネス」へ 

ドイツにおいても、いきなりインダストリー4.0構想が出現したわけではない。源流は、1990年の東西統一にまで遡る。

あらゆる機械がインターネットに接続される、世界的規模で進行するデジタル化の中で、なぜドイツは製造業の製造現場にスポットを当てた構想を打ち出したのか、国全体を挙げてインダストリー4.0構想を推進したインセンティブは何か、ドイツの国家目標は何か。それらを現地調査した結果は、次のとおりである。

まず、オフィスへのパソコン導入の歴史について振り返り、インダストリー4.0導入との類似性と対比したい。

筆者が社会人になった頃、先輩らからよく聞かされた話では、先輩らが若い頃は、コピーやファックスがなかったため、ガリ版を刷り、直接書類を手渡したり、投函したという。だが、筆者が社会人になった頃は、電話、コピー、ファックスがあったので、それらを使いこなして仕事をした。

やがて職場に大きなオフコン(オフィスコンピュータ)が入った。ワープロソフトはLPレコードくらいの大きさのフロッピーに入っていた。やがてオフコンに替わってパソコンが導入され、しばらくして1人に1台パソコンが配られるようになった。

その次に起きた変化が、パソコンがインターネットに接続されたことである。このとき、大きな変化が起きた。ガリ版からパソコンに至る変化は、業務に用いる「道具」の変化であり、「業務の効率化」による「生産性の向上」となって現れた。だが、インターネットに接続されたことで、ネット証券、ネット銀行、ネット通販、SNS、検索エンジン、動画、音楽配信など新しいビジネスが次々と生み出され、また端末機器もスマホやタブレットへと次々と進化し、それに対応できた企業の売上を伸ばしていった。

米国では、GAFA(Google、Apple、Facebook,、Amazon)が短期間に一気に巨大企業に成長した。今やインターネットに多少なりとも関わらないで仕事をしている人はほぼ皆無だろう。

オフィスで起きたデジタル化と同じ革命が工場の製造現場でも進行している(製造業だけでなく、医療、金融、物流、農業、建設などあらゆる分野でデジタル化が進行している)。今、ロボットがネットワークに接続されつつある。個々の機械設備が単独で稼働しているスタンドアローンの状態と比べて、ネットワークで接続されれば、全体がひとつのシステムとして稼働できるため、単独ではできなかった数多くの新しいことが「自律的」かつ短時間でできるようになり、全体が「最適化」されて「生産性」が大幅に向上する。

最近、そこにさらにAI技術が導入され始めている。これまでは、どうしても人間でないとできない作業は人間が行ってきたが、そうした作業もAIでできるようになってきた。ロボット、ネットワーク、AIの組み合わせにより、無人化工場はもうすぐ目の前まで来ている。

恐らく、企業にとって大きな利益をもたらすのは、「作業の効率化」よりむしろ「新しいビジネス」の方ではないかと、筆者は思っている。2000年代に入り、ディープ・ラーニング技術が出現し、さらに生成AI技術が登場した。生成AIは、デジタル化に乗り遅れた日本においてでさえ、ほとんどの企業や教育現場で採用され、急速な拡大を示している。社会のありように一気に大変革を起こすほどの拡大の仕方である。

ドイツの「第4の産業革命」はIoTがもたらした 

ちなみに、ドイツ人が言う第4の産業革命とは、製造現場に「モノとサービスのインターネット(Internet of Things and Services : IoT)」が導入されることで出現した。インダストリー4.0が導入されたシステムでは、機械や記憶装置をスマート化し、それぞれが自律的に制御された製造装置が、自動的に情報を交換し、自動的に稼働する。製造される製品もスマート化され、製造の過去の経歴や現在の状態、最終的に完成品に至るまでの製造ルートが自動的に認識される、というものである。

ドイツでは自動車業界、機械業界、電機業界、エンジニアリング業界などがインダストリー4.0構想に熱心であり、むしろこの構想をリードしていると言ってよい。

日本では、世界における怒濤のようなデジタル化の潮流に無関心な企業が多い。特に、地方の企業、中小企業にその傾向が強い。にっちもさっちもいかないようなところまで追い込まれないと動かない企業も多いと思われる。

ある地方都市の講演会終了後の懇親会で、デジタル化について話をしていたところ、ある人は「この地域の企業は、デジタル・ブームが早く過ぎ去ってほしいと頭を低くして耐えている」と言った。また、ある地方自治体の幹部が、東京で聞いたデジタル化の話を地元にもち帰って役所の中で話をしたところ、「あの人は東京で変な話を吹き込まれた、誰かに騙されたのではないか」と言われたとのことだった。

だがかつて、オフィスにパソコンが導入され、やがてインターネットに接続され、それを使うビジネスが当たり前になってきた歴史を我々は経験している。当時、パソコンが怖くて使えなかった人は知らない間にどこかに異動させられていなくなった。

今、世界中であらゆる分野に押し寄せているデジタル化の波は、頭を低くして耐えてやり過ごせばよいというものではない。このデジタル化の流れに追従しなければ、単に世界から取り残されるだけである。


岩本 晃一
経済産業研究所 リサーチアソシエイト
元日本生産性本部 上席研究員

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