◆“複数ポジション制”の問題点
複数のポジションを守れる選手がいれば、戦術や作戦を練るうえで手駒が増えたように監督は感じる。起用したい選手のポジションが被っていたら、「今日はほかのポジションを守らせてみよう」と考えたくもなるだろう。浦田については、二軍の試合でサードを試すべきだったが、その形跡はない。「ショートを守れるんだから、サードだってそつなくこなせるはずだ」とでも首脳陣は考えていたのだろうか。もしそうだとしたら考えが甘い。
たとえば坂本勇人である。本格的にショートからサードにコンバートされた2024年シーズン、さっそく結果を残してゴールデングラブ賞を受賞した。これは守備能力が抜群に高い坂本だから成せたわけであって、すべての内野手に当てはまるものではない。坂本の成功体験があったからこそ、巨人の首脳陣は見誤ったのかもしれない。
結果的に、ショートが本職である浦田の送球によって、主軸の岡本が負傷。その後のチーム構成に大きな悪影響を与えてしまった。単にスランプで調子を落としているのなら、体調を万全にさせ、復調するのを待てばいいが、故障は違う。選手生命にもかかわる事態を招いてしまえば、それこそ取り返しがつかないこともありえる。
このように本来のポジション以外での選手起用は、リスクと隣り合わせなのである。岡本の長期離脱は、見通しの甘さが招いた悲劇といっても過言ではない。
<談/江本孟紀>
【江本孟紀】
1947年高知県生まれ。高知商業高校、法政大学、熊谷組(社会人野球)を経て、71年東映フライヤーズ(現・北海道日本ハムファイターズ)入団。その年、南海ホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)移籍、76年阪神タイガースに移籍し、81年現役引退。プロ通算成績は113勝126敗19セーブ。防御率3.52、開幕投手6回、オールスター選出5回、ボーク日本記録。92年参議院議員初当選。2001年1月参議院初代内閣委員長就任。2期12年務め、04年参議院議員離職。現在はサンケイスポーツ、フジテレビ、ニッポン放送を中心にプロ野球解説者として活動。2017年秋の叙勲で旭日中綬章受章。アメリカ独立リーグ初の日本人チーム・サムライベアーズ副コミッショナー・総監督、クラブチーム・京都ファイアーバーズを立ち上げ総監督、タイ王国ナショナルベースボールチーム総監督として北京五輪アジア予選出場など球界の底辺拡大・発展に努めてきた。ベストセラーとなった『プロ野球を10倍楽しく見る方法』(ベストセラーズ)、『阪神タイガースぶっちゃけ話』(清談社Publico)をはじめ著書は80冊を超える。

