
2010年代半ば、第一次トランプ政権下で米中関係は急速に悪化し、バイデン政権を経ても大きく改善することはなく、米中新冷戦に進む危惧が叫ばれるようになってきました。さらに第二次トランプ政権では、米国自身がこれまでの国際秩序をひっくり返そうとしているかのような動きを見せています。そこで今回は、これからの国際秩序をゼロベースで捉え直し、私たちがどのように振る舞うべきかを考えるため、三尾幸吉郎氏の著書『図解 中国が変えた世界ハンドブック──9主要国の国益と対中関係から考える、米中新冷戦回避への道』(白桃書房)より「インドネシア」を取り上げ、同国の対中・対米姿勢を手掛かりに、まずは政治・社会の特徴を解説していきます。
価値観が相容れなくても、中国との距離感が近い国「インドネシア」
■両国の距離感(ポイント)
欧米型民主主義の国であり、歴史的に共産主義をタブー視するため、政治面では中国の価値観と相容れません。
しかし長い交流の歴史から中国文化に対する理解は深く、途上国同士で共感できる面もあります。世論の反中感情もそれほど強くなく、経済面では極めて親密な関係にあります。総括するとインドネシアと中国の距離感は「やや近い」と評価しています。
[図表1]インドネシアと中国の距離感分析 出典:筆者作成
インドネシアはASEANの人口の約4割、GDPの3割強を占める大国で、ASEANで唯一G20の参加メンバーです。中国とは長い交流の歴史があり経済面の関係は極めて親密ですが、米国との経済関係も親密であり、欧米型民主主義の価値観を共有しています。このまま米中新冷戦に突入して世界が分断されると、米中双方と親密なインドネシアは経済的に大きな打撃を受けます。
インドネシアはASEANで大きな影響力があるだけに、日本にとって協力を深めたい国です。
中国と対極の「欧米型民主主義」を導入していながら、共感も
インドネシアは欧米型民主主義の政治思想を持つ国で、政治的自由度も民主主義度も西洋諸国とほぼ同水準です(図表2)。
[図表2]インドネシアの政治的自由度と民主主義指数 出典:IMF、EIU、Freedom Houseのデータを元に筆者作成
この点、中国とは対極にあり価値観が相容れません。特に後述する9・30事件後は共産主義がタブー視されています。
他方、人権思想を巡る議論においては、自国がまだ十分に発展していない途上国であり、華僑も多く在住する多民族国家でもあることから、生存権・発展権を重視する中国に共感できる面があり、国連人権理事会などで中国の人権侵害を非難する動きに対しては、中立の立場をとる傾向にあります。
