いつまでも輝く女性に ranune
25歳の女性が映画の配給会社を起業するまで「マンションを購入するための貯金で配給権を買い、会社を辞めました」

25歳の女性が映画の配給会社を起業するまで「マンションを購入するための貯金で配給権を買い、会社を辞めました」

◆「一人じゃ何もできない」と思うことが多くて

──映画の配給権というのは、一般においくらぐらいなのでしょうか?

粉川:作品によってピンキリですが、今まで弊社が買ってきた作品は1万ドル(現在のレートで約160万円)が多いですね。『ストールンプリンセス』も似たような感じです。大金ですが、会社員の収入でも買えなくはない……額なんです。

──不可能な額ではないですが、すごい行動力です。

粉川:今までダイエットや語学学習など、続かなかったことのほうが多いんですけどね(笑)。無謀に見えて、自分なりにシミュレーションはすごくしています。もし公開が無理だったら、他の配給会社に転職活動して「映画の権利を一本持っています」とPRするつもりでした。

エッジな人々
’23年夏、ウクライナの人々に向けて行った『ストールンプリンセス』試写会の様子
──配給権はあっても、公開にはさらにお金がかかります。

粉川:キャスト調達やスタジオ代など、吹替制作が一番お金がかかりました。それでクラウドファンディングもして、最終的に933万3105円もの支援が集まりました。上映で得た収益を、ウクライナの制作スタジオや映画関係団体にお渡しするという目的もありました。

──日本語吹き替え版では主人公の声優を、オーディション番組発のボーイズグループ「INI」(アイエヌアイ)の髙塚大夢(ひろむ)さんが務め、俳優の斎藤工さんがナレーションをしたことも話題になりました。

粉川:髙塚さんのことは存じ上げてはいたのですが、詳しくは知りませんでした。でも、ラジオなどで聴いた声が、単純に素敵で。斎藤さんもまったくコネはなかったものの偶然街でお見かけする機会があり、こちらからお声がけしたところ、快く作品にご協力いただけました。

──同作公開後は、どのように事業を展開されてきたのでしょう?

粉川:何本か作品を買い付けました。ただ翌年の公開は難しく、韓流アイドルのマーケティング業務などに携わっていました。

──当時と比べ、従業員も増えたとか。

粉川:アルバイト2人、社員2人の計4人体制になりました。私は本当にミスが多く、たとえば劇場の入場者特典を40館に送るときに3館ぐらい漏れがあったり、「一人じゃ何もできない」と思うことが多くて。次回作に向け映画を買い付けた後で、お金もありませんでしたが、「何とかさせよう」と踏ん切りました。


◆ジブリを愛する監督が作った、長編アニメ

──そして今、新たに手がけるのがパキスタン初の長編アニメーション映画(※2)『The Glassworker(グラスワーカー)』です。

粉川:この作品は初め、アニメ好きの方のつぶやきを通じて知りました。パキスタンに生まれて、もともとはプロのギタリストとして活動していたものの、スタジオジブリの作品に深く影響を受けたウスマン・リアス監督が自らアニメスタジオを立ち上げ、10年がかりで作ったものです。ジブリ作品と日本との親和性や、監督の経歴が刺さりました。あとは、この作品が戦争を扱っている点にも惹かれました。監督自身、「実在する国の物語ではないが、静かな政治的緊張が常にある地域で育ってきたことの影響は受けている」と話しています。架空の町の話だからこそ、全世界に戦争の悲惨さを伝えられる。少年少女の芸術を通じた心の交流と、戦争に引き裂かれていく人々の姿を描くストーリーも、日本人に響く内容だと感じたんです。

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ウスマン・リアス監督
──配給権はどのように得たのですか。

粉川:権利元であるフランスの会社と’23年末から交渉を始めました。当初提示されたのは、こちらの希望額の10倍ぐらい。「うちの希望額じゃないと無理です」と言ったら、だんだん下がっていき、7倍ぐらいになって。’24年3月の(※3)横浜フランス映画祭で、来日した担当者とお会いしてさらに交渉したところ「もうわかった、あなたの提示額でいいよ」と、ようやく納得していただけました。

──限られた予算の中で奮闘されているんですね。

粉川:はい。我々は大手配給会社のように公開直前にCMをドンと打つ戦法が取れないので、作品の公開や宣伝にさまざまな戦術を駆使しています。クラウドファンディングもその一つ。作品の存在を知ってもらい、進捗があれば報告して、時間をかけて作品を応援してもらう狙いが大きいです。

──ウスマン・リアス監督とお会いしたことはありますか?

粉川:もともとSNSなどを通じてメッセージのやりとりはしていたんですが、’24年8月の(※4)「ひろしまアニメーションシーズン」で監督が来日していて、初めて話しました。時間にも正確で、地道にやってきた真面目な方という印象です。

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スタジオでカットを確認するウスマン・リアス監督 ©Mano Animation Studios
──同作はパキスタン初のアニメーション作品とのこと。同国で今までアニメ映画が生まれてこなかったのはなぜなのでしょうか?

粉川:監督いわく「パキスタンでは芸術がお金にならない」そうです。そんな国を変えるために、最初はほとんど素人だった監督が絵コンテを描き溜めつつアニメータースタッフを育成し、クラウドファンディングなどもして一からアニメ制作会社を育てている途中なんですよ。


配信元: 日刊SPA!

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