米中双方と相互依存関係…日本と歩調を揃え米中和解へのパートナーとなり得る国
中国陣営に与する可能性は低い。しかし、独立的・能動的な外交をする国で、経済的には米中双方と相互依存関係なので、米中新冷戦では中立を守る可能性が高い。
日本が米中両国の橋渡し役を試みる場合、ASEANでリーダーシップを取ってくれ、日本の交渉力を格段に高めることが期待できる。
米国と同じ欧米型民主主義で、共産主義に拒絶反応を持っているので「中国の特色ある社会主義」とは相容れません。しかし世論は全体としてわずかに親米な程度で、親中も強い国です。
経済面では、インドネシアにとって米国も中国も重要です。米国は輸出先としては第2位、輸入元としては第4位の貿易相手国であり、さらに投資元としても米国の対インドネシア投資は中国のそれに比肩する規模なので、関係を悪化させたくありません。
他方、中国は輸出先としては第1位、輸入元としても第1位の貿易相手国で、投資元としてもGDP比1.7%と大きな影響力があるため、関係を悪化させると甚大な影響が出ます。
とりわけ工業製品・部品・素材の主要な供給元であるため、それが滞ると工業生産に支障を来たします。さらに食品、エネルギー、石炭を買ってくれるお得意先でもあり、関係が悪化すると製造業だけでなく農家や鉱業で働く人々にも悪影響が及びます。
インドネシアは観光大国でもあるので、中国人旅行者が減ると、観光業で働く人々にも悪影響が強く、経済への打撃は看過できません。このようにインドネシア経済は、米国とも中国とも相互依存関係にあります。
そもそもインドネシアは、国益を重視した独立的かつ能動的な外交を基本方針としています。米中のいずれかに肩入れすれば、非友好国と見なされ経済的発展という国益を損ないかねないため、米中新冷戦になっても中立を守る可能性が高いと見られます。そして親中と反中が拮抗しているインドネシア世論もそれを望んでいるように見えます。
したがって、日本が米国陣営に与して中国陣営と闘うことになった場合、インドネシアに共闘を求めても同調してくれる可能性は低いでしょう。
一方、日本が橋渡し役を試みる場合には同調してくれる可能性が大いにあります。インドネシアにとって日本は米中以上に有力な投資元ですし、米中和解が国益に適うからです。実際、インドネシアのスリ財務相は「ASEANは米国と中国のバランスをとり、緊張を緩和する重要な役割を果たす」と述べています。
日本がASEANのリーダー的な存在であるインドネシアと共同戦線を張ることができれば、対米・対中での交渉力は格段に高まります。
[図表20]米中インドネシアの関係 出典:筆者作成
三尾 幸吉郎
ニッセイ基礎研究所 客員研究員
世界経済アナリスト
