◆「お前を20年閉じ込めるからな」と言われた
前述の通り、仕事は塾講師や教員などの頭脳労働にありつけたが、社会から隔離されるたびに転職を繰り返すことになる。六花星さんは一つの精神科と長く付き合うことをせず、自己判断で別のクリニックなどを受診するなどのくせがあった。そのせいで、紹介状を書いてもらえる病院がそのたびに異なり、治療の方針が定まらない時期が続いた。2012年に入院したある病院について、「屈辱的な仕打ちを受けた」と話す。
「原因は、病室でいじめられていた女の子を庇ったことでした。すると、保護室という、実質的な懲罰室に連れて行かれ、そればかりか病棟も移動させられました。そこは、20年に1人退院できるかどうかと言われている、長期入院の人がおおぜい収容されている場所です。そこで、ある医師に『お前を20年閉じ込めるからな』と言われました」
◆なぜ精神科医を目指すのか
だが、六花星さんは無事に退院が叶い、その10年後には結婚までした。「とはいえ、私の精神が安定せず、見限られて結婚生活は短いものでした」と肩を落とす。現在の状況について、六花星さんは「松沢病院に転院して、非常に尊敬できる主治医と出会えました」と話す。そんな彼の夢は「医師になること」。それも、精神科医を志望している。それはなぜか。
「少し前まで、とある女子校で常勤として勤務していましたが、通勤中の事故で身体障害を負って泣く泣く退職することになりました。精神も大切ですが、一方で、身体障害を合併している患者に対応できる精神科医が少ないことに問題を感じました。私が精神科医を目指す強い動悸です。もし自分が精神科医になれたら、心身の症状を診ることのできる精神科医になりたいと思っているんです」
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どれほど卓抜した能力を有していても、精神における支障を来せば日常を取り戻すことは困難になる。まして六花星さんのように、長く愛したパートナーを唐突に喪うことは人生に濃くて暗い影を落とすだろう。一方で、人は持っている才覚で社会に貢献していくのだろうとも感じる。「身体障害にも理解の深い精神科医になりたい」。その明晰な頭脳で、叶えられる夢をすべて拾ってほしい。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

