家に帰りたい…八方ふさがりの状況に絶望
そして、多江さんが老人ホームに入居してしばらくは平穏な日々が続きました。さゆりさんは施設近くの賃貸マンションに移り住み、再就職へ向けて忙しく動く日々です。
「調子どう?」「周りの人と仲良くやれてる?」週に2度は面会に行き、他愛ない会話を交わしていたさゆりさんですが、ほどなくして母の元気がなくなっていくことに気がつきました。
「ちょっと元気なさそうだけど、どうしたの? 体調悪い?」
すると、多江さんは言いました。
「家に帰りたい……」
理由を聞けば、施設は綺麗だけれど、介護職員と馬が合わず辛いと訴えます。
しかし、自宅を売ってしまった手前、帰りたくても帰る家はありません。いまのさゆりさんの住まいは1LDK。室内に段差もあるため、賃貸マンションで一緒に暮らすことも不可能です。
さらに、さゆりさんには経済的余裕もありません。50代での再就職活動は厳しく、とりあえず派遣社員として働いているものの、収入は前職の3分の2程度です。
多江さんがいま老人ホームを退去すれば入居一時金の一部は返金されます。しかし、一緒に暮らせば再びさゆりさんの負担が増すことは明らかです。
涙を流す多江さんに向かって、さゆりさんは「お母さん、ごめん。帰れないの……」となだめるしかありませんでした。
介護離職の前にできること
親の介護を担う世代は50代が最も多く、仕事と介護の両立に悩む人は少なくありません。総務省「令和4年就業構造基本調査」によると、過去1年間に介護を理由に離職した人は10万6,000人にのぼっています。
介護は精神的・肉体的な負担に加え、経済的な負担も見過ごせません。親のために介護に専念しようと離職を選択すれば、大事な収入源を失うことになります。
仕事と介護を両立するのは容易ではありませんが、まずは両立支援制度の活用を検討してみましょう。代表的な制度には「介護休業」と「介護休暇」があります。
介護休業
「介護休業」は、対象家族※ひとりにつき通算93日間まで休暇を取得できる制度です。休暇は連続でなくてもよく、最大3回まで分割して取得することが可能です。さらに、受給要件を満たせば「介護休業給付金」の対象となり、賃金日額の67%相当額が支給されます。
介護休暇
「介護休暇」は、対象家族※の通院やケアマネージャーとの打ち合わせなど、短時間の休暇が必要な場合に利用できる制度です。介護が必要な家族1人につき「年5日」まで取得でき、1日単位・半日単位・時間単位での利用が可能です。
※ 対象家族の範囲は、配偶者、父母、祖父母、子、孫、兄弟姉妹、配偶者の父母。
介護と仕事の両立に悩んだ際、まずは「働き続ける方法」を考えることが大切です。精神的に追い込まれると周りが見えづらくなりますが、1人で抱え込まず、会社に相談したり行政の支援を頼ったりすることで、解決の糸口が見つかる可能性があります。
