◆広島の原爆ドームの前で言葉を失った瞬間
仕事が休みのある日、同僚たちといっしょに広島までドライブすることに。目的は世界遺産の原爆ドーム(広島平和記念碑)を訪れることでした。戦争の歴史にふれながら「視点の違いで受け取り方が全く異なる」という貴重な体感があったそうです。「気分がとても重くなりました。私はアメリカで育ち、学校ではアメリカ側の視点で、日本に投下された原爆の歴史を学びました。原爆ドームについての知識はあるつもりでした。でも学校で教えられたことと、実際にこの地を訪れてみてのギャップに……」
アメリカの学校教育では原爆投下は「戦争終結のために必要な手段だった」と教えられたそう。
複雑な感情をどうやって表現していいか分からず、言葉が途切れるダンさんは、スマートフォンに保管された原爆ドームの写真を見せてくれました。

訪れた日は、晴天に恵まれた爽やかな陽気でしたが、それとは対照的に心はずっしりと重かったそうです。
「スマートフォンの翻訳アプリを使って、平和記念公園内の標識を読みました。このとき初めて、日本側からの視点も学んだんです。歩いてすべてのエリアを見て周りました。ここで起こったこと、そしてその重さを感じながら歩くのは辛かったです。同僚たちも同じ気持ちだったと思います。いつもなら冗談を言ったり、ふざけたりするみんなが無口になりました。観光気分で、笑いながら歩くことはできませんでした」
◆神社はまるで別世界

取材の最後に、ダンさんは笑顔でこう語ってくれました。
「きっと東京もクールで魅力的な場所だと思います。でも日本の文化を体感するなら、地方へ行ってほしいと周りの友人たちに伝えてます。とくに神社が立ち並ぶエリアでは、静けさとともに日本の精神性を肌で感じることができたんです。
あの場所にいるだけで、心が落ち着いて、まるで別世界にいるような気持ちになりました。すべてが静かで、すべてが穏やかで、とにかく美しかったです。だからこそ多くの人たちにこういう体験をしてほしいです」
<取材・文/トロリオ牧(海外書き人クラブ/ユタ州在住ライター)>
【トロリオ牧(海外書き人クラブ)】
2001年渡米、ユタ州ウチナー民間大使。アメリカでウェイトレスや保育士などの様々な職種を経験した後、アメリカ政府の仕事に就く。政府職員として17年間務めるがパンデミックをきっかけに「いつ死んでも後悔しない人生」を意識するようになり2023年辞職。RVキャンプやオフローディングを楽しむのが最高の癒しじかん。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員

