◆卒業メンバーの復帰が映し出す“ほろ苦い現実”
その一方で、神メンバーの復帰はほろ苦い現実も映し出しています。それは理屈抜きの娯楽とプロフェッショナルの仕事が両立しているヒット曲がほとんどないことの裏返しだからです。つまり、かつてのAKB48が体現していた下世話さが音楽から失われているのです。確かに、米津玄師や藤井風、Mrs. GREEN APPLE、king gnuにOfficial髭男dismといった本格派のミュージシャンが台頭してきていることは喜ばしいことです。またガールズグループやボーイズグループにも歌やダンス、ラップの実力が求められる時代になりました。
それは海外展開を目論む日本の音楽にとって欠かせない要素であることは間違いない。
けれども、音楽が一番の趣味ではない人たちにも訴えかける力を持った、良い意味で大味なヒット曲も欠かせません。一方で生真面目になりすぎずバカバカしさに向き合える器があるから、シリアスなアーティスト性を備えた人たちが際立つのです。音楽を盛り上げるためには、対照的な両輪が必要なのです。
◆AKBレジェンドの再集結が教えてくれること
その観点からすると、いまはシンガーソングライターバンドもアイドルも、一様に実力主義に傾いているきらいがあります。なんだか音楽がスポーツっぽくなっているのです。AKB48の代表曲にはその種の貧乏臭さが全くありません。今回の紅白で歌えば、それはこの時代に対する立派な批評となるはずです。
ただ昔を懐かしむのではない。AKBレジェンドの再集結は、芸事の肝も教えてくれることでしょう。
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

