サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届け。No58となる今回は、本誌No145に登場した『ロールズ』で惜しくも紹介できなかったサンドイッチの話を。

本誌で連載『サンドイッチ調査隊』を始めてから7年が経った。
そろそろ飽きてきても良さそうなものだが、まったくその気配はない。それどころか、日々食べ歩いていて出合う、その多種多様な顔ぶれに、サンドイッチの可能性はとどまるところを知らないと感じる。それと同じことを生春巻きに見出した人たちがいた。『ロールズ』のオーナー、エリーとベルトランの2人だ。彼らはアジア料理が好きで、なかでもベトナム料理が大好き。特に生春巻きはサンドイッチのようにどんな具材も合わせることが出来る、と魅入られたという。それで、生春巻きを看板商品とした店をオープン。6種の顔ぶれがメニューを飾り、たとえばベトナム料理店で定番のエビを主役にした生春巻きも、『ロールズ』ではマンゴとアボカドにミントとバジルを加え、チキンロールならばミントと洋梨、揚げたまねぎが入っている。いずれもジューシーで口の中がもそもそせず、ハーブもたっぷりで、サラダを食べている感覚になるものだ。


私がすっかり気に入ったのは、はじめは「どうだろうなぁ」と斜に構えていたベーコン入りのものだった。しっかりした燻製香のベーコンに、バジル、リンゴ、アボカド、ひまわりの種を合わせ、ピリ辛マヨネーズをほんの少し忍ばせて巻き込み、ごま醤油のソースがついてくる。これが、なんとも、楽しい気分になった。というのも、ひと口食べた瞬間に「あ〜、これ、高校時代にコンビニで売っていたら、週3で買っていたな」と思ったのだ。「大人になって手を出さなくなっていたけれど、そもそもこういう味、好きだったよね、私」と自分の元を探り当てられたような気がして、思わずニヤついてしまった。エリーとベルトランに伝えたら、実際、毎度これを目当てに週に3、4回来店する常連客がいるらしい。

さて。この、生春巻きが主軸の店にサンドイッチが2種類ある。具はチキンと、なす。チキンにはピーナッツソースが添えられ、なすバージョンのおともはスイートサワーソースで、いずれも店のオリジナルだ。メニューに書かれた“ソフトサンドイッチ”のサブタイトルが気になった。パリで、バインミーをスペシャリテとして展開する店ではパンを特注するケースが少なくない。生地は普通のバゲットと同じでもサイズを調整したり、もしくは、生地の配合をリクエストしたり。サンドイッチに齧り付くとき、最初に舌に触れるのは具じゃなくてパンだから、パンが違えばサンドイッチ全体の印象もそれに伴い異なってくる。


「今日初めて会ったのに、全然初めてな感じがしないね!」
まず最初に試したのは、オーソドックスな具材のチキンサンド。千切りにした大根とにんじんのマリネに、きゅうり、コリアンダーが詰められ、奥底に揚げたまねぎが潜んでいた。鶏肉は胸肉で、たまにピリ辛のマヨネーズが顔を出し、「今日初めて会ったのに、全然初めてな感じがしないね!」と言いたくなる味だ。パンは、たしかに柔らかいのだけれど、モチっとして、表皮もやわじゃない。全体的に馴染んだ感じがするのは、食べる段になって海苔を巻くタイプのおむすびじゃなくて、海苔が最初から巻いてあるおむすびみたいな。パリッとしているのもいいけれど、あの、海苔がぺとっとしているのも好きな私は、ものすごく親近感が湧いた。
付いてくるピーナッツソースもまろやかな味わいで、ちょろっと掛け回すと全体の一体感が増す。ベースはピーナッツバターながら、ココナッツミルクとレッドカレーペーストなどと合わせて煮詰めているそうで、だからか、ソースを加えると、サンドイッチというより料理っぽくなるのだ。



