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輪島塗でいただく加賀の銘酒。五感で味わう呑み比べセミナー「酒器と日本酒」を体験

輪島塗でいただく加賀の銘酒。五感で味わう呑み比べセミナー「酒器と日本酒」を体験

優美なたたずまいで引き込む輪島塗

ぐい呑(の)み、引盃(ひきさかずき)、朴(ほお)のカップ。テーブルに並んだ三種の酒器から、まず、輪島塗の表現力の豊かさを知ることになる。輪島市の製作・販売・修理を手がける田谷漆器店、輪島屋善仁(ぜんに)、輪島キリモトから出品されたものだ。

「堅牢優美」と称される漆器は完成までに124の製造工程を経て、生まれる。プロセスごとに専門の職人が受け持つ分業制で、室町時代から受け継がれてきた。1977年には国重要文化財に指定され、その技はまさに石川県の誇りだ。 拠点となる輪島市は、2024年中に能登半島地震と水害という自然の脅威にさらされ、工房も甚大な被害を受けた。それでもくじけずに、伝統を守りつつ新たな挑戦もする作家や職人がいる。漆器のタフさと、困難を乗り越えてきた作り手たちのたくましさが重なる。

優美なたたずまいで引き込む輪島塗

「呑み比べセミナーへ、ようこそ。講師の松木リエです。このイベントでは一つの銘柄を三種類の酒器で味わい、違いを感じていただきます」

日本酒は器の形によって香りや口当たりが変化する。広口の引盃ではアロマが一気に立ち上り、狭い飲み口では旨味がぎゅっと奥に届く。輪島塗特有のなめらかさが唇になじんで、呑み心地をいっそう引き立てるのだ。新しい嗜(たしな)み方を会得するために、要となる漆器の特性を解説してくれた。

インタートワイン ケーエム山仁(麻布台ヒルズマーケット ガーデンプラザC 1F)でソムリエとして活躍する、松木リエさん。仏のワイナリーで働いた経験も持つ

まずは朱色の艶が美しい、ぐい呑み。底に描かれた鯉(こい)は酒に揺らめき、まるで泳いでいるようにも見える。「広がりのある口径で、旨味や甘みを捉えやすいです。純米大吟醸とぴったりです」と松木さん。

ぐい呑み「魚泳グ」シリーズは、鯉や鯛(たい)など縁起のよい魚が主役

次に登場する引盃は、茶懐石の席から名を得た器。注いだ瞬間に立ち上る香りは、江戸の活気を彷彿(ほうふつ)とさせるように力強い。 冷えた純米大吟醸や吟醸を飲むのに適しているという。

歌川広重の東海道五拾三次を蒔絵で表現した引盃

美しい木目に自然のぬくもりを感じる朴のカップ。使うことで風合いが増していく。
「口が狭く、酒を舌の奥に運びます。深みのある純米酒や生酛(きもと)造り、熱燗(あつかん)と相性がいいです」

ビールや焼酎の水割りを飲むのにもちょうどいい形状

三種の酒器の特性を把握したら、お待ちかねのテイスティングタイムへ。サーブされるのは、白山市で200年以上の歴史を持つ車多(しゃた)酒造の2銘柄だ。

「まずは 『五凛 純米大吟醸』。軽やかな口当たりに、メロンや洋梨といったフルーティーなアロマが広がります。もうひとつは『能登大慶(たいけい)×天狗舞』。能登半島地震で蔵が全壊した櫻田酒造(珠洲市)と共同で醸したものです。クリーミーな酸味に、リンゴやスパイス、チーズ、ゴマを思わせる余韻が漂います。それでは、嗜んでまいりましょう」

アロマの特徴をフルーツで表現する松木さん。身近な食材で例えるソムリエ視点の解説のおかげで、味の想像がしやすかった

三種の酒器に30mlずつ注がれた「五凛 純米大吟醸」をぐい呑みからいただこうとしたら、松木さんから一言。

「一口含んだら、空気を取り込んでみてください」

その瞬間、ハチミツのような甘美な香りが広がった。

「夕張メロンのようなアロマがしませんか?」という問いかけに、一同が深くうなずいた。引盃では香り高く、カップでは酸の余韻が際立つ。酒器ひとつでこんなにも表情が変わることに驚かされる。

漆の艶やかな光沢に見惚(みほ)れ、酒の香りに酔う。石川が誇る伝統と美酒に触れる40分間は五感が研ぎ澄まされるひとときでもあった。

text: Mako Matsuoka

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配信元: marie claire

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